春菜(仮名)さんは15歳の時に家を出てから4年間、売春でお金を稼ぎ、彼氏を養って暮らしてきた。琉球大学教授であり、沖縄の風俗業界で働いている女性たちへの聞き取り調査を行っていた上間陽子さんは、そんな春菜さんに何度か会って話を聞いたという。

 被害者がいれば加害者もいる。上間さんが春菜さんに売春をさせて生活していた和樹(仮名)さんに会ったのは、春菜さんに会えなくなってしばらく経ってからのことだった。

 ここでは、上間さんが沖縄での生活を描き出した一冊『海をあげる』(筑摩書房)より抜粋して、和樹さんへのインタビューの一部を紹介する。

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写真はイメージです。 ©iStock.com

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 インタビューで、和樹についてわかったことは多かった。和樹は父親に殴られて大きくなっていて、母親にお金をたかられていて、いまは父親にお金を送っている。

 だったら和樹は許されるのだろうか? 和樹は春菜を使い、生きてきた。春菜が仕事をしたくないと泣いているときも、和樹は春菜を優しく促し仕事に行くように仕向けてきた。

 インタビューを書き起こしたデータをみながら、書くことによって、和樹のそうした日々が肯定されていいのだろうかと私は迷っていた。だが、取材した話を書かないことも違うようにも私は思う。

 和樹のインタビューの記録を、データのまま出してみようと思う。これは、沖縄で殴られながら大きくなった男の子が、恋人に援助交際をさせながら数千万円以上稼ぎだし、それをすべて使いはたし、その恋人に振られて東京に出て、何もかもを利用しながら新宿の喧騒のなかで今日も暮らしている、そういう記録だ。

 いつか加害のことを、そのひとの受けた被害の過去とともに書く方法をみつけることができたらいいと、私はそう思っている。

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——春菜の仕事、援助交際のことぜんぶ聞いてて。和樹と組んで客取っていたっていう話も聞いたわけさ。どんなして付き合った? どんな関係だった?