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オンライン対局は「ボタン一つで投了できてしまう」

 服部は“体で覚えた将棋”と言われるほど、実践を積み重ねて強くなってきた。奨励会時代、すでに多くの会員がソフトでの研究に比重を置いていたが、自分らしい将棋を追求したくて、人と盤を挟んでの実戦を積み重ねた。

「評価値を見ても自分が強くなっているわけではない。ちょっと食わず嫌いなところもあったと思いますが」

 実戦をメインにして、棋譜並べと詰将棋を毎日欠かさずにやった。対局もオンラインより、直接盤を挟む方がいい。

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「全然違いますね。相手が目の前にいると気持ちがわかるんですけど、画面だとそれができない。あと対面よりも最後まで粘ろうと思う気持ちが薄まる。ボタン一つで投了できてしまうから。淡白な将棋はよくないんです」

 面白い。22歳ながら昭和の棋士のようだ。服部は五感で将棋を感じて強くなろうとしているようだ。

「人の真似でなく、自分で考えて切り開いていく将棋が好きなんです。関西ではそういう棋士が多いと思いますね。若手だと井田さんです」

 

 井田は将棋において服部は我が強いと話す。

「服部君とは練習将棋でもお互いの主張がぶつかり合う。こっちは攻め潰せると思って、向こうは耐え切れると思って指している。だから私が一気に押しきって快勝するか、服部君の受けに足りなくなってボロ負けしてしまうか。感想戦でもこちらの主張をなかなか認めない。毎回そんな感じでした。互いに有段者になってからは、棋士室にいた時間は僕と彼が一番長かったのではないでしょうか」

 服部も言う。

「そんなに気が強い方ではないですが、将棋に関しては、尖っているかもしれません。それだけ真剣だからでしょうね」

 山崎は夕方以降の時間でも、棋士室に服部たちがいると思って、いつもふらっと立ち寄った。服部は山崎と目が合うと無言で頷いて盤を用意した。夜の10時頃から終電間際まで指すこともよくあった。

 最初、山崎に教わり始めた頃は、その指し手に、自分が知らない将棋を見ているような感じだった。直接攻めたいところで、力を溜めたり自陣に手を入れる。その呼吸の感覚が当時はまだつかめなかった。

「感覚的というか本能的というか、それまで自分になかったものを吸収させていただきました。プロになるまでに一番多く指していただき、最も影響を受けたのは山崎先生です」