路線価、固定資産税評価…国や自治体が決めた曖昧な指標
それにしても、モヤモヤするのはこの国税当局側が言う「時価」だ。通常不動産鑑定評価の世界では、実際の土地代や建物代を積み上げていく原価法に加え、テナントなどに貸す場合などを想定した収益還元法、周辺取引事例などから類推する比較事例法などの手法が存在する。
ところが現行の手法は、路線価と固定資産税評価という、国や自治体が決めたなんだか曖昧な指標を積み上げた原価法に近い代物だ。今回の事例でも収益還元法などでの評価をしていれば、これだけの圧縮にはならなかったはずだ。これを基本通達一本だけで、「はい、だめ~」とやってしまうのは、納税者側や税理士側からみれば、一体どんな方法で評価すればよいのよ、という文句が出るのも頷ける。今回の判決では、実は最高裁から、評価にあたっての何らかの基準が新たに出されるのではないかといった期待もあったのだが、判決は従来通りの「伝家の宝刀」を追認しただけのものとなってしまった。
あまり派手にやらずにこっそりと
また、今回の事例ではいたずらに評価額の圧縮を「しすぎた」ことが問題となっているが、これから多く発生する相続の中には、時価を算出できても実際には「売れない」「貸せない」「自分が住む予定もない」という三重苦の負動産、腐動産の存在がある。税務署が「価値がある」といっても、実際には流通価値を失っている不動産が全国で猛烈な勢いで増殖している。こうした不動産に対する評価についても見直す時期にきているのではないだろうか。
節税対策は所詮、税務当局との「いたちごっこ」とも言われる。数年前、タワマンを使った同様の相続税対策について講演やセミナーでおおいに宣伝し、本にまで書く自称専門家たちが跋扈した。こうした手法は昔から「こっそりやって」他人にあまり喧伝しないことが鉄則なのだ。ところが今回は残念なことに最高裁法廷にまで事案を持ち込まれてしまったのは業界的にはとても残念な行為だったであろう。
新築マンションの買い手として相続税対策客は上得意だ。価格が高いほうが税の圧縮効果が高い。こんなにおいしい客はいない。この方たちがマンション投資を躊躇するのは、供給側からは好調なマーケットで冷や水を浴びせられた気分だろう。
もちろん、今回の事例だってやらないよりやったほうがトクだったとも言える。不動産屋は打たれ強い。今度はあまり派手にやらずにこっそりと客に囁こう。
「やらないよりやったほうがお得ですよ。息子さん、お孫さんこれで安泰ですから」