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ワールドカップで4回優勝も給与は男子の4分の1 アメリカ女子サッカー代表チームが“ありがたい”環境でも性差別を訴えたワケ

2022/04/30

source : 文春新書

genre : ニュース, 国際, 社会, 働き方, 教育

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ありがたい環境でも不等な待遇に対しては声を上げるべき

 2019年の米国のデータでは、同一価値の同等の仕事をした際、男性の賃金を$1とすると、女性は$0.82にとどまるという結果です。アメリカでは毎年3月には男女の賃金格差について社会で認識し、議論するための“Equal Pay Day”という日がありますが、この訴訟を経て、2021年3月のEqual Pay Dayには女子サッカー代表キャプテンであり、前ワールドカップのMVPで得点王のミーガン・ラピノー選手がバイデン大統領と大統領夫人に招かれ、演説をしました。

 ラピノー選手は、自分はスタジアムを満員にしても、世界で一番の選手になっても、歴史的な視聴率や売り上げを記録しても、その価値を正当な賃金で評価されなかったことに関して、“There’s no level of status, and there's no accomplishments, or power that will protect you from the clutches of inequality. One cannot simply outperform inequality of any kind.”(どんな地位や業績、あるいは権力も、あなたを不平等の魔の手から守ってはくれない。人はどんな種類の不平等をもしのぐことはできない)と言葉にしました。

 この件に関する、アメリカ女子代表選手のインタビューで私の心に響いたことがありました。「今まで、女子サッカーができる環境があること自体が珍しいことなんだから、ありがたく思わなければならないと言われ続けました。私達はその環境をありがたいと思っています。しかし、ありがたいと思いながら、自分たちが不平等に雇われていることに対しては声を上げなければなりません」

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 この言葉が響いたのは、世の中の多くの女性に通じる言葉だと感じたからです。例えば、女性として家庭を持ちながら、キャリアを育成できる環境について、ありがたいと思っている女性はたくさんいます。ありがたいと思うあまり、自分の能力や貢献が正当に評価されているかどうか、それに値する給与や利得が与えられているかどうかに目を向けない傾向がある気がします。

 あるいは、専業主婦の人もまた、家事育児という無償労働を一手に担っていることがどんなに感謝と敬意に値するかということに気付けない環境にあるかもしれません。今ある環境に感謝をしながらも、自分の価値が環境側から正当に評価されるよう求めてもいいんだ、とハッとさせられました。

 そして、このような女子サッカーキャプテン、さらに“Equal pay!”と連呼する男性の姿もテレビで目にした多くの子ども達が、ラピノー選手のジャージを着て学校に通っていたことに感動しました。メディアでどのような人を目にするかという「表象」の重要性を再認識しました。