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未解決事件を追う

「警察には絶対に言わんとって。殺されるから」角田美代子の“喰い物”にされた一家の悲惨な末路とは

「警察には絶対に言わんとって。殺されるから」角田美代子の“喰い物”にされた一家の悲惨な末路とは

「尼崎連続変死事件」の謎 #2

2022/05/05

genre : ニュース, 社会

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借金を返せと詰め寄られていた谷本家

 だが、その後も美代子は自分が肩代わりした勝一さんの借金を返せと、彼の妹たちに詰め寄っていた。それが香川県高松市の谷本家と信枝さんの悲劇の始まりだった。

 ここで谷本家が出てきたが、それは信枝さんの姉である初代さん(死亡時59)の嫁ぎ先のこと。初代さんは谷本豊さん(仮名)と結婚し、高松市に住んで2女を儲けている。その後の話ではあるが、谷本夫妻の長女である茉莉子さんは「角田ファミリー」による監禁・虐待によって26歳で殺害され、次女の瑠衣は美代子の戸籍上の次男である優太郎(実際は三枝子が出産。懲役17年で服役中)と結婚し、「角田ファミリー」の一員となった結果、現在は懲役23年の刑を受け服役中である。

 豊さんは妻の妹である信枝さんについて説明する。

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「末吉家は兄さん2人を私立大学に行かせたから、初代を大学に行かせることが難しかったんよ。それで神戸で衣料品販売の商売を手広くやっていた、親戚の桐原家に子供がいないので、信枝ちゃんが養子に行き、先方に初代の短大への進学費用を出してもらったと聞いてます。その後、信枝ちゃんは結婚せずにお義母さんの世話をしていました」

床下から3遺体が発見された尼崎市内にあった家 ©小野一光

『警察には絶対に言わんとって。殺されるから』

 そう語る豊さんも、かつては高松市内で保険代理店を経営していた。美代子は末吉家の男兄弟2人を取り込んだことで、それに続いて、彼らの2人の妹の家族が持つ財産に狙いをつけたのである。

「実家が大変だから」

 そう言って初代さんが尼崎市の末吉家に帰郷したのは03年1月末。勝一さんが勤務先の小学校を早期退職した2カ月後のことだった。数日後の2月2日には、初代さんが泣きながら豊さんに電話を入れ、「迎えに来て」と訴えている。豊さんがすぐに車で末吉家へ向かうと、そこには初代さんと、同じく神戸市から呼び出された信枝さんに加え、初対面の美代子がいたという。さらに、その場で初代さんから、美代子にマサを谷本家で預かるように言われていることを聞かされる。豊さんは当時を振り返る。

「僕が初代に『この人(美代子)は誰や』と聞いたときに、勝一が借金してる人で『怖い人や』と言ってました。あと、初代と信枝ちゃんが『警察には絶対に言わんとって。殺されるから』とも言っとったんです。そのときはまさかそこまではせんやろと思っていましたけど、後になってみるとそうではなかった」

 豊さんは家に娘がいることから断ろうとしたが、美代子の強引さに負けて、結局はマサを自宅に連れ帰ってしまう。すると、マサは美代子からの電話が入ると、背中の刺青をあらわにして谷本家で暴れまわった。美代子から事前にそのように言い含められていたのだ。