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――しかし離すわけにもいかないですよね。

オーカーン まあ今だから冗談にもできるが、男もその時のことを酔っぱらって覚えてないと言うし、実際のところ幼子をどうするつもりだったのかはわからん。余が見たのは肩を引っ張られている瞬間だけだが、幼子は殴られたとも言っていた。後で駆け付けた警察は、そこから重大な事件に発展してもおかしくなかったと言っておったから、まあよかったんだろう。

――本当によかったです。

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オーカーン 少しタイミングが違えば余も通り過ぎていたかもしれないし、トラブルか親子喧嘩か一目ではわからんもんだな。近くには他の奴らも多くいたが、責める気にはなれん。それに余はプロレスラーで鍛えていて、男を取り押さえるなんて造作もないからな。

――オーカーンさんは女の子が助けを求めた勇気を褒めていましたね。

オーカーン いざあのような状況になると、人は案外パニックになって助けを求められないものだ。幼子も相手を突き放すことができず、萎縮して小さくなっていた。痴漢に遭った時に声を出せなくなるとか言うだろう、それと同じだよ。だから声を出して助けを求めたあの幼子は勇気がある。だが、ちょっと余は腹が立っていることがあるぞ。

「『この人顔怖っ』て思うわけねーだろ」

――何に怒っているのでしょう。

オーカーン 余のような見た目の人間に助けを求めるなんて勇気がある、と言っている奴らがいるだろう。そうじゃないだろうよ……。襲われている幼子が余を見て「この人の顔怖っ、でも強そうだから助けてもらおう」って思うわけねーだろ。隣にたまたまいた余に助けを求めただけで、それが誰だったかは関係ない。そもそも余はジャニーズ顔だ。

――(笑)。警察も駆けつけて身柄を引き渡した後に、女の子に持っていたパンケーキをあげたんですよね。

オーカーン 駅員と警察に男を引き渡したのだが、まだ幼子は泣いていてな。「怖かったよな? もう捕まえたから大丈夫だよ。パンケーキあるけど食うか?」と、それだけのことだ。泣いている女が笑顔になるなら、パンケーキくらいいくらでもやるよ。

――オーカーンさんからパンケーキもらうのも勇気がありますよね。

オーカーン 「美味しいか?」って聞いたら「美味しいです」と言っておって本当にいい子じゃ。隣にいた母親は「食べちゃったの?!」と驚いておったが(笑)。とにかく余は幼子にこの事件をトラウマにしてほしくなかったからな。怖いことがあっても、最後に美味しいものが出てきたらその思い出はちょっとはマシになるだろう。