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プロの指導対局も…誰もが学び、楽しんだ将棋合宿

 決して、匠少年のような強豪だけを集めた合宿ではない。級位者も参加しやすいクラス分けなど、知恵を出し合った。段級で区切るにしても、各教室や道場での段級の基準にばらつきがあるので、「参加者には東京将棋会館道場の段級を聞く」ことなどを決めていった。

 大きかったのは、それぞれの子どもが通っている将棋教室などのつてでプロ棋士を呼べたことだ。第1回には勝又清和七段と上田初美女流四段、飯島篤也指導棋士五段が講義や指導対局のために参加してくれることに。ミニ大会、詰め将棋競争、リレー将棋など盛りだくさんで、子ども40人、パパ、ママも合わせて総勢70人ほどの合宿になった。

一緒に合宿に参加した三軒茶屋将棋倶楽部の仲間たちと朝食。中央は小4の伊藤匠五段、右は川島滉生さん(写真提供・宮澤春彦さん)

「匠はいろいろな子と指せるのを楽しみにしていました。親の楽しみは、夜の懇親会のお酒(笑)。親はスタッフを兼ねているので、リーグ戦の表を作ったり、手合い付けのマニュアルを作ったり、事前の準備もいろいろあったけれど、みんなで連絡を取り合って楽しかった。親も指して楽しむことを目的にしていたから、親のトーナメントもありました」(雅浩さん)

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「読む将棋2022」に掲載した「伝説の『親将ブログ』」の本編では、雅浩さんの棋力を10級としたまま上達を紹介できなかった。ここで説明しておくと、雅浩さんは保育園年中で将棋を始めた匠少年にねだられるまま、1年ほど毎日のように対局をした上、勉強もしたのでそれなりに上達した。

「匠が保育園年長だった2008年度後期にNHKで放送された『森下卓の相居飛車をマスターしよう』という講座を半年間見ました。矢倉、角換わり、相がかり、横歩取りの4戦法を学ぶもので、テキストも買って匠と一緒に勉強しました。

 それで匠が小1になったときに一緒に東京将棋会館道場に行ったら、私は4級と認定されました。そこからは匠みたいに上達はしません。でも、一度将棋ウォーズで初段に上がったんですよ。自称初段ということにしていたら、指したことのある将棋仲間に『初段はないでしょう。良くて1級でしょう』と言われてしまいました(笑)」(雅浩さん)

 合宿では真剣な顔でパパ仲間と対局したり、指導対局を受ける雅浩さんの写真が残っている。

合宿に参加したお父さん、お母さんも指導対局を受けた。左端が村中秀史七段、左から二番目が伊藤雅浩さん(写真提供・宮澤春彦さん)

 神奈川や埼玉の同じような合宿施設に場所を替え、夏と冬の2回、2013年の冬まで合宿は6回も行われた。現在は女流棋士になっている和田あき女流初段、和田はな女流1級姉妹も参加。和田あき女流初段は、合宿内の大会の一番上のクラスで優勝したことも。最終となった第6回の合宿では、大会の一番上のクラスで優勝したのは匠少年、そして準優勝は三軒茶屋将棋倶楽部でともに腕を磨いた同学年のライバル・川島滉生さんだった。

 真剣に将棋に取り組むだけでなく、花火や川遊びなどのお楽しみもあり、口の周りにタレをつけたままバーベキューを楽しむ匠少年の写真も見つかった。

バーベキュー施設のあるところで合宿。左が小3の伊藤匠五段。お父さんたちはビールで乾杯(写真提供・宮澤春彦さん)

 招くプロ棋士は回ごとに代わり、戸辺誠七段、村中秀史七段、中村亮介六段、門倉啓太五段も1回ずつ参加。子どもたちがお面をかぶって駒になり、門倉五段と上田女流四段の「人間どうぶつ将棋」の対戦が行われたこともあった。