匠少年が将棋に熱心に取り組んでいることを雅浩さんが大学院時代の先輩に話したところ、人数が足りないと社団戦のチームに誘われ、川島滉生さんとともにチームに入れてもらったのだ。チームは3部に所属し、アマ三段(将棋連盟道場など段級が厳しめなところでの段位)の匠少年より強い人もたくさんいるというクラスで、経験を積むのにちょうど良かった。
そして翌年、チーム「鰻」のメンバーとして雅浩さんも、初めて社団戦に参加することになった。当時は1番下のクラスだった5部にエントリーしたのだ。メンバーは「子どもの大会の引率の経験は豊富だけれど、自分の大会の経験はあまりない」というパパが中心。
「指そう」と言っても相手をしてくれなくなっていた
父の参加を聞いた匠少年は、「4級で勝てるわけがない」「15連敗確定」(チーム戦は4日に分けて15戦行われる)。意地悪や反抗期で言っているわけではない。社団戦はレベルが高いのだ。現在、社団戦は7部までクラスが増えているが、主催の東京アマチュア将棋連盟のサイトに掲載されているレベルの目安はこうだ。
1部 元奨励会有段者、県代表クラス
2部 1部に準じる
3部 道場四段クラス
4部 道場三~四段クラス
5部 道場三段クラス
6部 道場二~三段クラス
7部 級位者~道場初段クラス
約1500人が会場に集まる大会でこのレベルだから、世の中にどれだけ将棋が強い人がいるのか嫌でも分かる。
保育園の頃は、雅浩さんが仕事で疲れていてもおかまいなしに対局をねだってきた匠少年だったが、親子の棋力が逆転して大きな差がつくと、雅浩さんから「指そう」と言っても「弱くなるから嫌だ」「先生(宮田利男八段)が弱い人と指したらいけないと言った」と答えて、相手をしてくれなくなっていた。
小4になった匠少年が前年と同じチーム、雅浩さんが鰻チームで参加した社団戦1日目、雅浩さんは4連敗。相手は三段前後の有段者ばかりだった。
細かい棋譜は忘れてしまったが、1局目から3局目はいずれも途中で優勢を意識したので、その局面を息子に見せて「お父さん、強い人相手に結構善戦しただろ、強くなっただろう?」と自慢したところ、いずれも「別に優勢でも何でもない。もう悪くなってる」とピシャリ。うーん、いい勝負をしていたと思っていたら、そうでもなかったのか、と落胆。優劣を判断できないところも弱さの大きな原因の一つだろう。
(2012年7月・小4)
他にも雅浩さんがアドバイスを求めると、「弱くて言うことがない」とか「負けそうになってから時間を使っても遅い」と匠少年にダメ出しされる様子が綴られている。
親子一緒に出られた最後の大会で念願の一勝
しかし匠少年、厳しいことを言いつつも父の将棋を気にしていた。雅浩さんが社団戦で初勝利を挙げた日のブログはこうだ。