伊藤匠五段の父・雅浩さんのブログ「Footprints」は、匠少年の将棋だけでなく親の将棋とその交流が書かれている。

 社交的な雅浩さんは、将棋キッズの親同士の会には積極的に参加。親子合宿を企画運営したり、親チームで社団戦に出たりした。今でもその友情は続き、仲間は小さい頃から知っている「たっくん」がプロ棋士になったことを、我がことのように喜んだ。

 この番外編ではそんな雅浩さんの交流や対局、すっかり親子の棋力が逆転してからの匠少年の父との関わりを紹介する。

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ときんの会の合宿にて、飯島篤也指導棋士五段のアドバイスを受ける当時小3の伊藤匠五段(写真提供・宮澤春彦さん)

親仲間の交流から生まれた「ときんの会」

 多くの将棋キッズは大会が大好きだ。「真剣勝負は棋力向上に欠かせない」という考え方もあり、将棋キッズの親はあちこちの大会に子どもを連れて行く。大会のほとんどは日曜日か祝日。年に15~20回くらい匠少年を大会に引率していた雅浩さんは、こんなことを書いている。

(子どもの将棋の)観戦・引率以外の目的を持たないと、自然に子どもの勝ち負けに一喜一憂しがちになるし、子どもたちへのプレッシャーにもなってしまう。どうせなら自分も楽しむようにしたいもの。

(2011年11月・小3)

「楽しむ」ための大きな存在が親仲間だった。最初から仲間がいたわけではない。

「たっくんのお父さんですか」

「あの、ブログ読んでます」

 こんな風に大会会場で声をかけられた。

 匠少年は小1で有名将棋キッズ。小学館学年誌杯(学年別に行われる大会で、小3の時には伊藤五段と藤井竜王の対戦があり、負けた藤井少年が大泣きした大会である)の1年生の部で優勝。各学年の上位2名で行われるグランドチャンピオントーナメントで上級生を次々破って3位に入り名をあげたのだ。雅浩さんのブログを読む人も増え、親将仲間の輪が広がり、大会に行けば仲間との談笑を楽しめるようになった。盤駒を持って行き、片隅で親同士練習対局をすることも。

 ブログのコメント欄や、当時流行っていたmixiでも親仲間と交流するうちに、1人が「子どもたちを集めて将棋合宿をしよう」と言い出した。雅浩さんも乗り気で、パパ仲間で将棋バーに集まって打ち合わせ。「ときんの会」という名称も決まり、匠少年が小2だった2010年7月に千葉県の公営の合宿用の施設(スポーツ少年団の合宿などで使われる)で、大会とかぶらない土日を使っての第1回の合宿が決まった。