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「ウクライナ人は景気づけにやたら銃を空に向けて乱射したりしない。強い国民性とはこういうものか」ウクライナ入りした宮嶋茂樹さんが見た“侵略された国”のリアル

「ウクライナ人は景気づけにやたら銃を空に向けて乱射したりしない。強い国民性とはこういうものか」ウクライナ入りした宮嶋茂樹さんが見た“侵略された国”のリアル

#1

2022/05/01
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 キーウには内務省と軍が設置したプレスセンターがあり、戦闘があった場所に海外メディアを案内して、現状を世界に伝えるためのプレスツアーも行われていた。その1つが、虐殺の地となったブチャだった。

「軍が先導して各国のメディアの車が後をついていくんですが、少し道を外れたらどこに地雷が埋まっていてもおかしくない。ただブチャについたら、恐怖を悲惨さが上回りました。道端にはロシア兵の黒焦げの死体がゴロゴロ転がっていて、肉が焼けた臭いと死臭が鼻の奥にこびりつく。郊外のゴミ捨て場で見つかった6人の遺体を見た時はさすがに顔をしかめました。2人の女性と4人の子供が服を剥ぎ取られて、ゴミと一緒に燃やされていたんです。ロシア兵はここまでやるのかと」

黒焦げに焼かれたブチャ市民6人の遺体は報道陣に公開されたあとは死体袋に包まれ、安置所に運ばれた 撮影・宮嶋茂樹

他のカメラマンがアスファルトの道を離れて…

 戦争取材でプレスツアー自体は珍しくないが、宮嶋さんはその様子からもウクライナの「自信」のようなものを感じたという。

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「イラク戦争の時も米軍がプレスツアーを開くことはありましたが、撮影可能な場所が決まっていたり、取材していい相手が予め用意されていることも多かったんです。しかしウクライナのプレスツアーでそういう制限はほとんどありませんでした。どこを撮ってもいい、誰に話を聞いてもいい。『世界に恥じることは何もしていない、悪いのはロシアだ』という自信があるんでしょうね。ただ怖かったのは、一緒に行ったカメラマンが、アスファルトの道を離れて地雷が埋まっているかもしれない土の上をスタスタ歩いて行くこと。眼の前で人が死ぬのは見たくないし、巻き添えになるのも嫌ですからね」

遺体や路上の車にゼロ秒信管の手りゅう弾やブービートラップが仕掛けられているか警戒する。この手口はアフガンでソ連軍(当時)がやられた手口である。なおこの特殊部隊隊員の手にする武器装備のほとんどが最新のアメリカ製のようである 撮影・宮嶋茂樹

 ウクライナは世界の支援を得るためのメディア戦略に優れていると言われるが、その土台にはオープンな情報開示がある。それでも「何を報道したかチェックされている」という感覚はやはりあったと宮嶋さんは言う。

「些細なことで身柄拘束される人はいたし、自分もホテルの窓から検問所を撮っていたのをホテルのフロントマンに見つかった時は『何しているんだ!』とすごい剣幕で怒鳴られました。怖かったのは、翌日にそのフロントマンが過去に出した出版物や記事について話しかけてきたこと。取材は進行中の軍事作戦に関わる場所以外は大きな制限をかけずオープンですが、各国の報道はやはりチェックしているのだと実感しました」

 宮嶋さんは当初、ウクライナへ入る予定はなかったという。それでも、最終的に現地へ向かうことを決意した。宮嶋さんは戦争の現場に何があると信じているのだろうか。(#2につづく)

「ウクライナ人は景気づけにやたら銃を空に向けて乱射したりしない。強い国民性とはこういうものか」ウクライナ入りした宮嶋茂樹さんが見た“侵略された国”のリアル

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