竹下のセッター技術、佐野のレシーブ、木村のサーブ
ハンディをハンディと認識した上で、相手国の高さやパワーといった身体能力を発揮させない技術を日本が高めれば、メダルは獲れる。相手に大砲のようなスパイクを打たせないため、その前にサーブで崩す。高いブロック網につかまらないためには、網が張られる前に縦、横を使った速い攻撃で攻める。打たれたスパイクは徹底して拾い、相手をじらす。いわゆる先手必勝だ。
全日本に多くの戦略を投入した眞鍋が言う。
「皆さん、身長ばかりに目が行きがちですけど、バレーのルールは、床にボールが落ちなければポイントは入らないんです。点を取ることも大事ですが、いかにして相手に点を与えないかということも僕は研究しました」
さらにロンドンでメダルを確実なものにするため、4つのテーマを掲げていた。「サーブレシーブ」「サーブ」「ディグ」「ミスの少なさ」を追求し、この4項目で世界一になれば、メダルにぐっと近づくと眞鍋は考えたのである。
この目標のヒントになったのが、故松平康隆の言葉だった。就任して2年目の頃、松平に「お前は何を目指しているんだ」と問われ、「ロンドンでメダルを獲ることです」と答えると、松平からこんな言葉が返ってきた。
「メダルは簡単には獲れない。僕がミュンヘンで金メダルを獲ったときは5つの世界一をもっていた」
そう言われ改めてチームを振り返ってみると、世界一に近いところにいるのは竹下のセッター技術、佐野のレシーブ、木村のサーブぐらいしかない。眞鍋が言う。
「だから、この3人には絶対に世界一になってほしいと伝えました。でも、3つしかない。そこで現戦力をふまえ、考え抜いた結果が、“サーブレシーブ”“サーブ”“ディグ”“ミスの少なさ”で世界一になるという目標だった。7つの世界一の目標があれば、何かがだめでも5つぐらいは世界一になれるだろうって」
そして悔しげに言う。
「でも、ロンドン五輪が終わってみれば、サーブとディグでは1位になったけど、サーブレシーブは4位。ミスの少なさもトップじゃない。だから銅メダルに終わった」