「未来永劫埋まらない」世界との差
だが眞鍋は、ブロックの重要性を選手に説いた。そのためには、強豪国の先を行くブロックシステムを見出さないことには意味を成さない。つまり日本のオリジナルか、まだ女子ではどこも使っていないブロックシステムである。竹下が言う。
「眞鍋さんはデディケート(マークを絞る)ブロックと言っていますけど、相手の幾つかある攻撃手段のうち、あらかじめ対応するものを決めておいて、その攻撃に対して必ず複数人のブロックで抑えるというものです。この約束事にディグのポジションを連動させることによって、相手の攻撃に網を張るという発想です。でも、このブロックシステムはロンドン五輪には間に合わなかった……」
また、あえて相手のブロックに捕まったように見せかけてリバウンドを取り、そこから攻撃を仕掛ける作戦も考えた。相手は決めたと思ったのに拾われ、攻撃のチャンスを与えてしまったと思えば動揺する。もし1度の切り返しで決まらないなら、それを2次攻撃、3次攻撃につなげ、最終的に相手を追い詰める。サッカーで言うなら波状攻撃のようなスタイルだ。
ロンドン五輪では、得意のデータバレーを逆手に取る戦術も見せた。大会直前になって、竹下、中道以外の背番号を全員変えてしまったのである。相手国は、背番号でデータを取っている。その根本を錯乱させてしまおうという作戦だった。データの意義を極めていなければ、そんな発想も浮かばない。眞鍋がニヤニヤする。
「本当はデータだけでなく、選手に髪型も皆一緒にして欲しいと頼んだんです。誰が誰だか分からないようにする最後の決め手だと僕は思ったんですけど、それだけは嫌だと選手全員に拒否されてしまいました」
眞鍋がデータをフルに活用し、選手らに高い技術と強い意識を求めたのは「ないものねだりしても仕方がない」という割り切りがあったからだ。
以前の全日本が国際大会で惨敗する姿を目の当りにしてきたバレー関係者やファンは、毎回のように「もっと背の高い選手を使え」と声を上げた。しかし、どんな高身長の選手を探したところで、民族的な特性から180センチ台が限界。確かに日本人も大きくはなっているものの、世界はそれ以上に身長が伸びているのだ。190センチ台が顔を揃え、ロシアにいたっては2メートルを超える選手が複数いる。国土面積が広がらないのと同じように、その差は未来永劫縮まることはない。