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「もうありえない発想……」

 竹下は世界で勝つには、バックアタックの速さの追求は避けて通れなかったという。

「日本は昔から器用だといわれてきましたが、海外の選手にはもっと器用な選手が増えてきた。だから横だけの速さを追求しても、いずれ対応される。そのためには縦の速さも欲しい。バックアタックの速さが加われば、縦、横で攻められるし、それらを有効的に組み合わせることによって攻撃のオプションが増すんです」

 データバレーのお陰で、一挙に技の高度化が進んだ。

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 速さの追求はそれだけではない、と竹下が苦笑いする。

「眞鍋さんはCパスからミドル(センター)を使えというんです。もうありえない発想……」

 ありえないといいながら、竹下はどこか嬉しそうだった。

 相手のサーブを拾うことをキャッチといい、ほぼセッターの定位置に返球されたボールはAパス、セッターが2~3メートル動いてトスを上げなければならないときはBパス、コースを数メートルも走ってトスを上げる必要に迫られた場合はCパスという。そのため、Aパス以外はキャッチが乱れたと表現される。

眞鍋ジャパンの中核的存在だった竹下佳江選手 ©JMPA

 速い攻撃はAパスが返された時に仕掛ける技だが、眞鍋はキャッチが乱れても速い攻撃を仕掛けることを竹下に求めた。Cパスからのセンター攻撃を成功させるためには、素早くボールの下に入り込んで、乱れたキャッチを一瞬で修正し、遠く離れた場所に速くそしてピンポイントでトスを繰り出さなければならない。この技術を習得するのは至難の業だったと竹下が述懐した。

「普通はCパスならサイドのオープン攻撃しかないわけで、眞鍋さんはその固定観念を破りたいと考えたんです。ミドルにはブロックが1枚しか付いていないからチャンスがあるって」

 そして、相手のブロックをいかにふるかという攻撃パターンだけでなく、眞鍋は日本のブロックシステムそのものにも手をつけた。

 日本のブロック決定率は、スパイク決定率以上に低い。それも当然で、ミドルは身長の高さが露になるポジションのため、世界の上位国が取り入れているリードブロック、バンチブロックを習得したところで、同じ技なら世界の高さには通用しない。半ば、諦めの気持ちがあった。