立ち食いそば屋は老舗そば屋と異なり、安定して経営を続けていくことが難しい。身内に代替わりすることは意外と少なく、一代限りで閉店する店もかなり多い。
しかし最近は「タタムなんてもったいない」ということもあり、さまざまな方法で暖簾が継承されているようだ。そんな中、ユニークな継承で再開した店がある。板橋区仲宿にある「そば谷」だ。
2014年に閉店した東十条「そば谷」
かつて「そば谷」という店が東十条駅北口改札を十条側(西側)に出て5分ほど歩いた交差点のたもとで営業していた。この店は知る人ぞ知る「関東染まり系つゆ」の名店であった。つゆは関西人では考えられない漆黒で、そばがすぐ黒く染まるのでそう呼ばれていた。
この東十条「そば谷」は開店から45年後の2014年2月に惜しまれながら閉店した。地域に溶け込んだ古めかしい枯れた佇まいが印象的で人気だった。そして、常連の心の中に静かに残るだけの存在となっていた。
そして時は流れて2020年2月、コロナ禍がまさに始まろうという時に、板橋区仲宿に同名の「そば谷」が突如、再開した。東十条「そば谷」の超常連だった2人の男(現オーナーの斉藤さんと店長の二階堂さん)が店主に再開への熱い想いを伝え交渉を行い、出汁や返しの作り方を伝授してもらい開店にこぎつけたというわけである。実に6年のブランクを経て立ち食いそば屋が継承されたという話は前代未聞である。
板橋区役所前駅から歩いて10分ほど
コロナ規制が解除された2022年のゴールデンウィークを迎えた土曜日、仲宿「そば谷」を訪問することにした。