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〈福井県・中2指導死〉「孤立感、絶望感を深め…」教師からの厳しい叱責にさらされた生徒が自死を選ぶまで

2022/05/13
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「息子が亡くなってから実施されたアンケートを読みましたが、涙を流しました。息子が『死にたい』と言っていたことや教師から大声で怒鳴られたことなど、知らないことがたくさん書かれていた。辛かったんや……、と思いました。涙が止まらなかったことを覚えています」(母親)

 2017年3月14日午前8時30分ごろ、福井県池田町の町立池田中学校から「生徒が窓から飛び降りた」と110番通報があった。警察官が駆けつけると、3階建て校舎北側に2年の男子生徒・ヨウヘイさん(仮名、享年14)が制服姿で倒れており、搬送先の病院で死亡が確認された。警察によると、自殺と見られた。

教職員の不適切な指導をきっかけにした生徒が自殺した「指導死」

 同年10月、池田町学校事故等調査委員会が調査報告書をまとめた。「本生徒の悩みは担任、副担任の指導叱責」であり、その結果、「孤立感、絶望感を深め、ついに自死するに至った」と結論づけた。つまり、不適切指導が要因の自殺、いわゆる指導死だった。文部科学省は報告書を受け、「生徒指導上の留意事項について」という通知を出した。

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 3年後の20年6月、遺族であるヨウヘイさんの母親が、町と県を相手取り提訴。21年10月には証人尋問が行われた。そして、22年3月、福井地裁(上杉英司裁判長)で、原告(ヨウヘイさんの母親)と被告(町と県)との間で和解が成立した。教職員の不適切な指導をきっかけにした生徒が自殺した事件で、調停での和解は山口県の例があるが、訴訟での和解成立は珍しい。原告の母親に話を聞いた。

ヨウヘイさんが通っていた池田町立池田中学校

泣いて過呼吸を訴えるも、担任は家族や管理職への報告はせず

 ヨウヘイさんは17年3月14日に亡くなるが、前日はどんな様子だったのか。

「前日は、朝は普通よりもテンションが高い感じでした。数日前に部活で手の怪我をしたので、制服に着替えるのは難しそうでした。帰宅後、高校についての手紙をもらってきました。『行きたい高校へ行けばいいよ』と話しました。

 私は仕事が休みでしたので、バレンタインのお返しに友達の家を車で一緒に回りました。夜には兄とゲームをしていました。私は眠くなったので先に寝ました。『明日も学校だから、早く寝るんだよ』と声をかけました。そのとき、特に変わった様子はありませんでした」

 報告書には、前日の指導について書かれている。朝の会後、ヨウヘイさんは副担任に「宿題を出せません」と言った。副担任が理由を聞くと、「部活動で怪我をしたため」と説明した。部活でのランニング中に転倒し、右手と左ひざを負傷していた。しかし、副担任は「何日も前だからできたはず」と問いただすなどした。ヨウヘイさんは「やったんや、やったんや」と言いながら泣き出し、過呼吸を訴えた。この件について、副担任は担任に「家庭に連絡しないでよいですか?」と尋ねた。担任は「報告の必要がない」と考え、連絡はしていない。管理職にも報告しなかった。