1ページ目から読む
5/5ページ目

「このことは最終段階の報告書を見せられたときに知りました。そのときまで知りませんでした。マラソン当日の帰宅後も、普通でした。怒られたのは、マラソンが始まるときの出来事のようです。

 実行委員長として挨拶することになっていて、その挨拶文ができていなかった、ということで怒られたということです。しかし、実際には考えていたようで、部屋から実行委員会のファイルに綴られたメモが出てきました。家に忘れたのでしょうか。担任は『どうなっているんや!』『なんでできてねえんや!』と怒鳴っていたようです」(同前)

同僚からも指導の仕方について注意したほうがいいと指摘

 ちなみに、ヨウヘイさんが大声で怒られたのはこのときだけではないようだ。

ADVERTISEMENT

「息子が大声で怒鳴られたのは、実は、このときだけでなく、12月のクリスマス大会でもあったと聞いています。このときは、1人ではなく、息子と生徒会長の2人だったようです。見ていた同僚からも『(指導の仕方について)注意したほうがいい』と指摘されていたのです。このとき、担任は『分かっている。手加減している』と応じたそうです」(同前)

 ほかにも17年1月か2月に、職員室前で「お前(生徒会活動を)やめてもいいよ」と担任から大きな声で叱責された。その理由は明らかにされていない。同年2月上旬、生徒会主催の卒業生を送る会があった。ヨウヘイさんは合唱の練習で歌詞カードを配布する担当だった。しかし、カードを忘れたため練習ができなかった。その際、担任から強い叱責を受けたが、目撃した生徒は「言い方がひどかった」「(ヨウヘイさんは)下を向いていて暗い感じだった」と証言している。

福井県庁

「先生たちには、どうして教師になろうと思ったのか考えてほしい」

 その後、遺族は町や県を相手に提訴したが、なぜ和解に応じたのか。

「和解の話が出たときには、『判決にしたほうがいいのか?』『本当に和解にすべきか?』と悩みました。決め手は、息子の辛さ、学校での出来事、学校に問題があったことなどを裁判所がわかってくれたことです。

(和解条項にある)再発防止は、『学校がよくなったよ。変わったよ。もう苦しまなくていいよ』と息子に報告したいからです。そのためには、できることをしたいです。息子のように苦しむ子がいなくなってほしい。先生たちには、どうして教師になろうと思ったのか、改めて考えてほしいです」(同前)

 度をすぎた叱責や人格の否定などについて、会社での行為は「パワーハラスメント」として認知され、社会的な対策が進みつつある。しかし、学校という閉ざされた環境での不適切指導や「指導死」は、いまだ十分に理解されているとは言いがたい。

 現在、文科省の有識者会議では、生徒指導の基本書「生徒指導提要」の改訂作業を行っている。その中で、「不適切指導」に関する内容を採り入れるに指導死の遺族でつくる「安全な生徒指導を考える会」が要望している。ヨウヘイさんの遺族も、同じ悲劇が繰り返されないことを願っている。

写真=渋井哲也