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突然出てくる「凸版の山本さん」とは何者か?

阿久真子『裸の巨人 宇宙企画とデラべっぴんを創った男 山崎紀雄』(双葉社)

 副題にあるようにAVとエロ本で一時代を築いた男の評伝である。ヘアが見える見えないではなく、女性の肌の色にこだわりぬく。それが山崎紀雄であった。エロ本の同業者も「山崎さんところの肌色は凄く美しい」と讃え、本人も「いまの凸版印刷、あそこまでクオリティを上げたのは俺なんだからさ」と豪語する。

 理想の肌色を求め、山崎が色校正を戻し続けるうち、印刷所も本気で応えるようになっていく。

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「でも聞くほうにもセンスが必要でトヨタや資生堂を担当していた凸版の山本さんはダントツに芸術肌。上手でした」

 突然出てくる「凸版の山本さん」。

 山崎とならぶエロの巨人・村西とおるの評伝を書いた本橋信宏は、「芥川龍之介、菊池寛に混じり写真におさまる仲間たちのなかで、『ひとりおいて』とキャプションで記されてしまった“ひとりおかれてしまった”人物」(注)、こうした人たちを活字に残すことが自分の使命だと著している。

「凸版の山本さん」はそれこそ “ひとりおいて”とされる市井の会社員に違いないが、それでも日本の印刷技術の進歩に貢献した偉人なのだろう。そこに光を照らす、これぞノンフィクションの魅力である。

(注)『新橋アンダーグラウンド』駒草出版