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魔窟のような国鉄の「終わりと始まり」
牧久『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』(講談社)
大蔵省の事務次官にまで登りつめた高木文雄も、国鉄総裁になるや、労働組合にカマシを入れられ、やがて昼間から酒を飲んでベロンベロンに泥酔するようになる。……この魔窟のような国鉄を解体・分割民営化するという、昭和の終わりに起きた「政治経済最大の事件」を再検証したノンフィクションである。
自民党と社会党、田中角栄と中曽根康弘、加藤六月と三塚博、国労などの労働組合と彼らに怯える国鉄キャリア、こうした重層的な対立と、それを縦断していくの改革派「三人組」(井手正敬・葛西敬之・松田昌士)の人間対人間の勝負が読みどころだ。
また本書は終わりとともに、始まりが描かれる。
最大労組・国労が切り崩され、弱体化する一方で、別の組合・動労の松崎明が力を得ていく。分割民営化後の国鉄キャリアの割り振りについて、松崎が井手に「Hら三人を東京に残してくれ」と頼み込む。そうして残ったHらは、新会社で「完全に松崎の“エージェント”」に堕ちる。
国鉄解体の過程で、そこに新たな厄介の種がまかれ、それはすぐに萌芽して、新会社を支配していく。その支配の実態は08年の講談社ノンフィクション賞作品・西岡研介『マングローブ』に深く書かれるが、本書はその前日談ともなっている。