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「仕事も好きだったけど、バイクもすごく好きで、30歳過ぎに大型免許を取ってツーリングにもずいぶんいったのよ。でも事故は辛かった。もう免許は返納したの」と少し寂しげな草野さん。事故は本当に大変で、今も後遺症があるという。

「事故は本当に辛かった」と話す草野さん

吉田屋そば店は7月末に閉店する

 そして、今「もっとも辛いこと」は7月末で店を閉店することだと切り出した。西武線に面した一角で営業している店は4軒のみ。店ヨコの坂道は新宿区戸塚特別出張所に行く人がいなければ閑散としている。8月以降にすべて取り壊され、本格的な再開発を待つことになるという。なんとも悲しい話である。

店前から下っていく道沿いの店はすべて取り壊される

「再開発とはいえ、自分が生まれ育ったこの土地を去らないとならないこと、大好きな店をやめないとならないことはすごく辛い。この土地が自分の心の故郷だったの。でもこればっかりはしょうがないから。高齢だからどこか代替地で店をやるということは無理だろうし。まあこれでやり切ったということかな。でも、いざ閉店となるとノイローゼになっちゃいそうで何だか怖いのよ」と気丈に振る舞う草野さんはすごく寂しそうな顔を見せた。

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駅前のこの土地が草野さんの故郷なのだ

だから最後くらいはパッと盛大に

 草野さんは江戸っ子気質。くよくよしてはいられない。「閉店の7月末まで、吉田屋そば店で食べてきた人、そうじゃない人もみんな来てほしいのよ。お別れの挨拶をしたいな。今まで生きてきたんだから」

「最後くらいはパッといこうよ」と草野さん

 46年間3坪の店の厨房から、草野さんはずっと早稲田通りの人波を眺めてきた。学生運動の騒乱も宴会帰りの早大生も、行商売りのおばちゃん達も、常連との挨拶も、草野さんの記憶にイキイキと残っている。草野さんが大好きなそば屋の仕事を終えるまで応援していこうと思う次第である。また、6月13日からはご主人も一緒に、閉店までがんばるとのことである。

草野さんはずっと早稲田通りの人波を眺めてきた

草野さんのご主人も大衆そば屋を二毛作で経営

 ところで、草野さんのご主人は大井町の東小路で「彩彩」という大衆そば屋を経営している。その店も、昼はそば屋、夜は居酒屋の二毛作である。夫婦で別の立ち食いそば屋を経営していて、いずれも二毛作というのは人類77億人でたぶん唯一の夫婦だと勝手に認定している。2人はとても仲睦まじい。実は「吉田屋そば店」訪問の前日、「彩彩」に伺い、閉店の話を知ったというのがこの取材のきっかけだった。

 7月末の閉店まで、大勢の応援を受けて2人でどうか走り抜けて欲しいと願っている。

「いざ、高田馬場、吉田屋そば店へ急げ」

ご主人の店「彩彩」は大井町駅すぐにある
「彩彩」の「冷やしたぬきそば味玉」は絶品だ 
夫婦で別の立ち食いそば屋を経営しているというキセキ

INFORMATION

 

吉田屋そば店
住所:東京都新宿区高田馬場2-19-6
営業時間:月~金・土 6:30~13:30
定休日:日祝(閉店までは営業することもあり)

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