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「逮捕後の文通では保釈金の支援を求めてきたり…」裁判傍聴と逃亡同行者の証言が明かす“脱走犯”のリアル

「逮捕後の文通では保釈金の支援を求めてきたり…」裁判傍聴と逃亡同行者の証言が明かす“脱走犯”のリアル

高橋ユキ『逃げるが勝ち』インタビュー #1

2022/06/09
note

地元の人は泳いで渡った野宮を「大したもんや」

――Googleマップで見ると、向島から本州はわりと近くて、本書にも高橋さんの撮った写真がありますが、見た目は静かな海です。これくらいなら「潮止まり」でなくても泳げそうに思えてしまいます。

高橋 私もそう思って「ここ、泳げません?」と聞いたら、地元の人に呆れられながら「大きな波が立たないだけで、潮の流れは早いんだ。軽い気持ちで泳いだら、すぐに流されるぞ」と言われ「すいませんでしたっ!」となりました。やはり何でも聞いてみないとわからないものです。実際、野宮も手紙に「どんなに泳いでも横に流されるだけで、全然前に進みませんでした」と書いていました。

 そんな下手すると死んでしまいかねない海を泳いで渡ったので、住人のなかには野宮について「大したもんや」と感心する人もいたほどです。

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 離島というとお年寄りばかりの、寂しいところだと思ってしまうかもしれません。でも向島は、日立の造船所などもあることからか、船の便も結構な本数があり、若い学生も多くて活気がある島なんです。また行きたいです。

――本州に泳ぎついてから、広島市で逮捕されます。このあたりが読ませます。

 警察がいくら捜索しても見つけられない野宮を、ネットカフェ店員たちは「この男だ」と思い、それが逮捕につながっていった。今回の本は、「SlowNews」での連載をもとにしていますが、そこに書いた後にもう少し話を聞きたいなと思い、追加取材したときに得られた証言なんです。

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