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 それより、もっと当事者やそこに近い人たち、偶然にも関わった人たちに、実際のところはどうだったのか、その人にはどんなふうに見えたのかを聞きたい。だからライターとしての私は、本人に面会したり、文通したり、現場取材で地元の人たちの話を聞いてまわっている。そうやって、自分の読みたいものを書いている感じです。

裁判傍聴で聞けない話は文通で

――高橋さんは裁判傍聴から犯罪取材のキャリアを始めていますね。

 刑事裁判の傍聴は、被告人本人の話を直接聞くために今も続けています。でも、裁判は自分の刑がどれだけ軽くなるかを賭けた戦いの場なので、どうしても反省のアピールなど自分にプラスになることを発言することになります。それに法廷には出てこない話もある。「こういう証拠が出てきて、あのことは聞かれたけど、これについては聞かれなかったな」みたいな、ちょっとした心残りがあったりするんですよ。

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©️iSrtock.com

 そうした「本当のところはどうなんだろう?」「ここをもう少し知りたいな」ということを本人に聞けるのが、文通です。裁判で言っていたことの意味を確かめたり、法廷では質問されなかったけれども私にとっては気になることを直接訊ねたりすることができますから。

 現場取材はライブ感が強いというか、実際に行ってみるまで取材に応じてくれるかどうかもわからなくて、何時間もかけて行ったのに、なにも聞けないときもあって、いつも大変な思いをします。でも、そうした苦労を含めて、私は魅力に感じています。裁判傍聴と文通や現場取材の両方をやることで、自分の中の事件や犯人の実像が、だんだん完成されていくみたいな感じですね。

――後半は、松山刑務所逃走事件と同じ年に起きた、富田林署逃走事件についてお話をうかがっていきます。