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得体の知れない「異形の総理」の登場
《この場合の「無作為」というのは、たとえば「天皇制打倒」を唱える社会主義者を作為的とするなら、田中はまったくの無作為という意味である》
天皇・皇后が主催する園遊会の露骨な政治的利用(選挙区の支援者を多数招くなど)も平気の平左。日米首脳会談の席でニクソン大統領から天皇訪米を求められると、その場で承諾し、訪米の時期まで詰めてしまう。当然、宮内庁は激怒する。
《宮内庁長官の宇佐美毅は辞任覚悟で田中に会い、天皇の政治的利用を拒否する、と強い調子で申しでている。むろんここには天皇の意思が働いていたと見ることができる》
昭和天皇は得体の知れない「異形の総理」の登場に驚き、戸惑い、恐怖の感情さえ覚えたのではないか。
「しがない馬喰のせがれには、これしか……」
その一方で、角栄は国民に大人気の庶民派総理でもある。
新潟の雪深い寒村に生まれた馬喰の倅が高等小学校卒業後、15歳で単身上京。世間の冷たい風にもめげず、腐らず、街の土建会社の社長から国会議員に大出世し、遂には総理大臣に。
今太閤誕生、と謳われたこの奇跡の出世譚は国民から大喝采を浴び、ベストセラー『日本列島改造論』のスケールの大きさも相まって、田中角栄人気は空前の社会現象となった。