高見も涙をこらえながら出口のフォローをする
やがて戦いを終えた2人が、石田とともに大盤解説会場に。いつものように謙虚に挨拶する藤井。対して出口は「最後ちょっと勝ちがあったような気がしていたので、ここで終わってしまうのはとても悔しいというか……。また頑張りたいと思います」と話してうつむく。感情をこらえていたが、会場からの長く大きい拍手に、もう涙が止まらない。下を向き、右手で強くマイクを握り、左手で顔を覆う。
藤井よりも出口への拍手のほうが大きかった。観客がもらい泣きし、高見も涙をこらえながら出口のフォローをする。そうだ、高見も叡王を失ったとき、同じ思いをしたんだった。やばい。急に花粉症が悪化した。止まれ涙腺。高見がこらえているのに、50すぎたおっさんがもらい泣きしてどうする。
第1局の解説会では両対局者が将棋の振り返りをしたが、出口をこれ以上いさせてはいけないと、高見とアイコンタクトした。高見がその場を締めくくる。対局者退場後、高見は「皆さんの拍手と、応援が伝わったから抑えきれなくなったんだと思います」と語った。こうして、4時間半に渡る解説会は無事に終了した。
どうすべきだったか、AIの推奨手は…?
高見と一緒にお客さんを見送り、控室に戻ると、対局終了から30分以上経つのに将棋にとりつかれた者たちがまだ熱心に検討していた。岡崎、門倉、佐々木、三枚堂、そして理事として来ていた鈴木大介九段だ。銀打ちが敗着ならばどうすべきだったかということで、出口が読んでいた金打を調べたが、勝ちそうに見えて藤井玉が粘り強く、一筋縄ではいかない。やがてAI推奨の手を検討しはじめた。
モニターを見ると、感想戦でもその場面を検討していたところだった。対局室に入ると2人の笑い声が聞こえた。出口の明るい表情を見てホッとする。なかなか結論がでず、立ち会いの石田も一緒になって考え込み、「難しい終盤だねえ」とぼやく。
師匠が私に「勝又くん、どうすればよかったのかね」とふってきた。「控室で角打を検討していました」と言うと、2人とも驚いた表情に。AIの推奨手は、打つ場所は同じだが銀ではなく角を打つ手だった。「大駒は離して打て」の逆を行く手で、人間的には指しにくい。しかも、竜が逃げたときにさらに自陣に金を投入しなければならない。
棋士は誰も思いつかなかったし、何より藤井も読んでいなかった。