1ページ目から読む
4/4ページ目

記録は3連敗でも「記憶に残る」戦い

 2日後、出口とおなじ井上慶太九段門下で、7歳年上の稲葉陽八段に電話で話を聞いた。稲葉はABEMAトーナメントで、出口と服部慎一郎四段を指名した。2人は指名されたことで奮起し、叡王戦で快進撃を続け、挑戦者決定戦で対戦した。「さすが稲葉さん、若手の実力を見抜く目が鋭い」と仲間内で話題になった。

 また、稲葉自身も復調した。調子を落としてA級から陥落したが、B級1組では2戦目で藤井に勝ち、3勝3敗から6連勝、1期でA級に復帰している。

悔しさをにじませる出口若武六段(写真提供:日本将棋連盟)

「出口くんは、彼が小学生の頃から加古川将棋教室で教えていました。最初は駒落ちでしたね。早見え早指しの振り飛車で、才能のある将棋を指していました。ただ、三段リーグでは苦戦していて、プロになれるかどうかすら心配していました(笑)。居飛車も指すようになり、また新人王戦で決勝に進出して藤井さんと戦えたことが転機になったと思います。

ADVERTISEMENT

 プロになってからも、持ち時間をうまく使えず順位戦で降級点を取ったりしましたが、そこからさらに成長しましたね。特にこの数ヶ月は持ち時間をしっかり使い、強くなりました。

 叡王戦第3局では、端に打った自陣角と、玉を上がって受けた手が印象に残っています。ああいう粘り強い手が指せるんだなと感心しました。名局だったと思います。今回は残念でしたが、第3局のようなレベルの高い将棋を指せていれば、さらに上がれるでしょうし、またタイトル戦に出るチャンスもあるでしょう。お疲れさまでしたと言いたいです」

 出口は藤井の得意戦法と真っ向勝負し、見事に戦った。記録上は3連敗だが、「記憶に残る」タイトル戦だった。また大舞台で彼の戦いが見たい。

この記事を応援したい方は上の駒をクリック 。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。