地方都市を旅する際には、ご当地の百貨店を訪れるようにしている。そのまちにしか残されていないような小規模の百貨店には、昭和の時代から変わらないレトロな雰囲気の中に、豪華な装飾や気品ある内装をそこかしこに見つけることができるからだ。
また、どの街でも見かけるショッピングモールにはない、ここでしか味わえない旅情のようなものも感じる。
百貨店という場所には、休日や特別な日に家族総出でおめかしをして出かけ、こどもはおもちゃを買ってもらい、レストランで食事をし、屋上の遊園地で遊んだという思い出がある人も多いだろう。ちょっとした贅沢品を買うとき、大切な人に贈答品を贈るとき、祝い事や人生の節目には決まって、百貨店で買い物をしたのではないだろうか。
昔は、“百貨店”という名前であるように、食品や衣料品だけでなくなんでも売っていたが、私はそれらと一緒に、夢と希望とステータスも“百貨店”には売られていたように思う。
長崎で出会った魅惑のローカル百貨店
2019年。私は学校帰りの学生たちに囲まれながら、長崎本線に揺られていた。小高い山々、広がる田んぼ、戸建てが並ぶ住宅地、並走する国道……。西日を我慢しながら目まぐるしく変化するまち並みを、ただぼんやりと眺めている。学生たちと一緒に途中の駅で電車を乗り換え、まち並みの隙間からチラチラと海が見えてきたら終点、佐世保に到着だ。
駅から10分ほど歩くと、まちの中心にたどり着く。佐世保の台所として賑わう戸尾市場、防空壕を利用した店舗が並ぶトンネル横丁、道幅の広いアーケード商店街の横には、賑わいはじめた飲み屋街も広がっている。無数の店が立ち並び、レトロな雰囲気のあるまち並みは、ホテルまでの道のりだけで私の心をときめかせた。
商店街のアーケードは全長1kmにも及び、直線距離としては日本でもっとも長いといわれている。
あくる日、商店街の散策を始め、お目当ての目的地の一つであった「佐世保玉屋」へと向かった。