「商業出版される小説の9割は、自費出版の歌集よりつまんないですよ」
歌人の山田航さんは、そう断言する。『桜前線開架宣言』は、1970年以降に生まれた歌人40人について解説して、各56首を選んだアンソロジーだ。
「ふだん短歌に興味がない人に、現代歌人の面白さを、お笑い芸人のネタ紹介みたいな感じで伝えたかったんです。スティーブ・ジョブズのプレゼンを参考にしながら、感情に訴えるように、暑苦しく語りかける文体で書きました」
小説や映画が苦手で、少年ジャンプも読んだことがないという山田さん。21歳の頃、教科書で読んで印象に残っていた寺山修司の歌集を手にとった。
「昔から一番好きな芸術の形式は音楽で、文学は自分には縁遠いものだと思っていたのですが、短歌のリズムにハマったんです」
山田さんは、大学卒業後に就職した会社を1年目にクビ同然で退職し、生まれ育った札幌へ戻った。
「自分のなかでゴールを決めてできることをしなければダメになってしまうと感じて、札幌市の中央図書館の短歌棚にあった本を『あ』から順番に読み漁っていくことにしました」
そして、200人以上の現代歌人を5年かけてブログでレビュー。その経験が本書の元となっている。
「タイトルの『開架宣言』には、自分の本棚を開放することでフロンティアが見えてくるという意味をこめました。穂村弘さんは歌人としても短歌の批評家としてもエポックメイキングな存在で、若手歌人の多くは穂村弘の批評のパラダイムで読み解かれてきた。それを更新できないかという気持ちはずっとありますね」
山田さんは、今は専業歌人だが、3年ほど前まではゲームソフト会社のハドソンでアルバイトをしていた。
「ゲームを実際にプレイして、不具合が出たら報告する仕事でした。同僚は社会になじめない人ばかりで、仕事中に居眠りして起こされたら逆ギレする人もいた。自分も含めて、みんな社会のひずみに生まれてしまったバグみたいな存在だなと思っていました」
短歌は作者と読者の距離が近い、と山田さんは言う。
「サラリーマンも、ヤンキーもいるし、自身の立つ場所をすごく大切にしている人が多い気がします。読者が親近感を持ちやすいし、歌人は実際に会いやすいんです。この本で、気に入った歌人を1人か2人見つけて楽しんでもらえればいいですね」
「この本で選んだ40人がきっと、98年のワールドカップ日本代表みたいになりますよ」。短歌賞を総なめにしている気鋭の著者が、1970年以降に生まれ、時代への批評意識があり、ロック・スピリットを持ち、現代日本文化のエッジとして力を発揮している歌人たちを紹介する。「21世紀は短歌が勝ちます」。