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日本のそばの自給率はたったの20%…神奈川に「奇跡のそば畑」を作った男が始めた“すごいビジネス”

2022/06/21
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清廉な「わさび大根おろしそば」をいただく

 そんな話をしていると、すぐに「わさび大根おろしそば」が登場した。そばをひと口食べてみる。ほんのりと明るい若草色を帯びた甘いフレッシュな十割そばである。以前にもましてキリっと締まったコシの強いそばで、よく冷やされている。辛味大根はそれほど辛味は強くないがなかなかうまい。辛汁は、浅草の老舗「並木藪蕎麦」を彷彿させる濃い味で、ちょっとつけて食べると出汁のうまみが広がる。食べ終える頃には店は既に満席となっていた。

「わさび大根おろしそば」が登場
キリっと締まったコシの強いそば

三期作に成功し、大きく変貌

 ここで「丹沢そば本店」の石井社長について簡単に説明しようと思う。先代の石井庄太郎氏が秦野の地で「石庄丹沢そば」をはじめたのは1959(昭和34)年。そばの製麺業でスタートし、その後そば屋を開業した。

秦野の横野地区のそば畑

 後を継いだ石井勝孝社長は、2000年頃からそばの栽培を試行錯誤しながら始めた。そして経営が軌道にのった2011年頃、秦野の横野地区、三廻部地区などに広大な土地を所有し、そばの作付けを本格的に開始。「キタワセ品種・丹沢山系エメラルドバージン」という品種を開発し、しかも春・夏・秋収穫の三期作を可能にした。

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剥きたて、挽きたて、打ちたて、茹でたての十割そば

「丹沢そば本店」では、収穫した玄そばを剥きたて、挽きたて、打ちたて、茹でたてで、しかも十割そばで提供している。丹沢の名水も使用している。

 さらに丹沢そばブランドの乾麺、冷凍や生麺の十割そばを大手百貨店に卸し、一般販売している。またPB(プライベートブランド)や他店ブランドとしても育成している。

製粉機がずらっと並ぶ

 つまり、1次産業(そば生産農家)、2次産業(製粉製麺会社)、そして3次産業(そば店として販売および商品の卸・販売)までを行う。石井社長は秦野を中心にした神奈川県西部の地場産業に大きな影響を与え続けている6次産業化(※)の認定農業者である。

※農業者(1次産業)が、製造・加工(2次産業)やサービス業・販売(3次産業)にも取り組む経営業態のこと。