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日本のそばの自給率はたったの20%…神奈川に「奇跡のそば畑」を作った男が始めた“すごいビジネス”

2022/06/21
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6次産業化推進のための“農業アカデミー”

 2015年に丹沢そば農業アカデミーを開校した。アカデミーの生徒は、2年間、実践的なそばの播種から管理、収穫、実習を行う。さらに2年間フォローアップ研修で実際に農地生産を行えば、農地を購入し耕作する認定農業者の資格を取得できるというわけである。

 しかし、アカデミーといっても、「通常の専門学校のようにカリキュラムがあり授業を受けて修了すれば資格がもらえるというものではない。そばによる6次産業化のプロフェッショナルをつくることこそがその目的だ」と石井社長はいう。

 40名ほどのアカデミー生はほぼそれぞれの仕事を続けながら兼業で参加しており、中には将来の農業ビジネスへの足掛かりとして参加している経営者もいるという。こうしたアカデミー生を川上(農業)から川下(販売経営)まで熟知したプロのそば職人にすることが石井社長の目標であり、同時にそばの収量を上げていくという独自の戦略となっているわけである。

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三廻部地区の新しいそば畑へ

 そばを食べ終わるとすぐに、石井社長の軽トラに乗って三廻部地区の新しいそば畑を見に行くことにした。前回訪問から石井社長は何をしてきたのかを知るキーポイントがこの三廻部地区だという。

「頼朝はん」と呼ばれる石碑がある杉木立

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で鎌倉時代の歴史がいまブームになっているが、三廻部は源頼朝の妻政子が安産祈願のために3回ぐるっと廻り、子宝に恵まれたという言い伝えが残る地域で、そば畑を見に行く途中にも「頼朝はん」と呼ばれる石碑がある杉木立が目に入った。そう言われるとなんだか霊験あらたかな場所という気がしてくる。

三廻部地区から厚木方面を望む

 新東名高速道路を横断し、四十八瀬川を渡り、どんどんと山深い地域に入って行く。10分ほどで目的地に到着した。標高は450メートル程で、出発地点より気温は2~3度低下している。一帯は三方向を丹沢から続く尾根に囲まれている。山懐には霧がよく発生し、気温の日内変動が大きい。この地形がそば生産に適しているのかもしれない。

購入した山林を開拓してそば畑へ
傾斜地も開墾してそば畑に

 到着した場所は石井社長が最近購入した山林で、それを開墾し、夏そばを数日前に植えた所だという。石井社長が所有するそば畑は2年前、約2万平方メートルだったが、現在は約3万平方メートルにまで拡大した。他にも委託を受けてノウハウを提供しているそば畑が、秋田県にかほ市、福島県いわき市、近隣の松田町、小田原市内などにもあり、合計すると5万平方メートルのそば畑を管理している。

 石井社長は2011年に自前の畑でそばの三期作を始めた。収量アップが最大の目的だが、天候に左右されることが多いそばの作付けでは、保険的な意味合いもあるという。