仕事柄、新幹線に乗る機会が多い。たいていの場合は眠っているか、本でも読んで過ごしているのだが、たまには何か食べたり飲んだりしたいと思うこともある。そんなとき、ちょうどよく通りかかるとありがたいのがワゴンを押した売り子さんだ。
売り子さんという表現はあまり良くないかもしれないのでJR東海さんに聞いてみると、「パーサー」というらしい。「のぞみ」「ひかり」には、基本的に1列車あたり3人のパーサーが乗って、それぞれ役割分担をしながらワゴンを押して車内を回っている。あの“硬いアイス”もワゴンに載せて売っているアイテムのひとつだ。
……と、だいたいふつうのお客とパーサーさんとの接点なんてこのくらいなもので、新幹線に乗るたびに見かけているのにどのような仕事をしているのかなんてほとんどわからない。よくよく考えてみれば、彼ら彼女らの仕事の舞台は東京と大阪を結んで走る夢の超特急の中。つまり移動しっぱなしの中で働いているのだから、さぞかし大変なのではないかとも思う。
そういうわけで、東海道新幹線のパーサーさんふたりに話を聞かせてもらった。普段の仕事内容から、ワゴンの中の“売れ筋”商品、そしてコロナ禍の新幹線について——。
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〈取材に応じてくれたのは、2018年入社の甫立真子さん、そして2020年入社の峯岸果鈴さん。東海道新幹線のパーサーは入社直後のアシスタントパーサーにはじまり、パーサー・シニアパーサー・チーフパーサー・インストラクターへとステップアップしていく。5年目の甫立さんはそのうちシニアパーサー、3年目の峯岸さんは現在パーサーの立場だ。そしてふたりのキャリアの2年の違いは、コロナ禍の前後を隔つ。〉
——峯岸さんの入社が2020年4月ということは、最初の緊急事態宣言が出たころですよね。
峯岸 コロナが爆発的に流行りだした頃に入社したので、研修も自宅でオンラインでしたし、乗務するようになってからも乗車率が10%前後みたいな状況でした。ただ、列車に乗って研修する機会がほとんどなかったので、いきなり満員ではなくて、お客さまが少ない中で徐々に慣れていけたのは良かったと、プラス思考でいるようにしましたね。
甫立 私が入社した頃は、最初に研修を受けてからGWの満員の列車にいきなり乗ってましたから、大変でした(笑)。ワゴンの動かし方とかも学んだばかりのところで、通路にはお客さまがどんどん来るし、あちこちから「すみません!」「すみません!」って言われるわけですから。