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〈写真多数〉「村民がゾンビに扮するのはどうかなぁ」…観光客を倍増させた「人口700人の村」の奇跡

『700人の村がひとつのホテルに』 #3

2022/07/06

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 人生相談, ライフスタイル, 娯楽

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3:新たな特産品「山女魚のアンチョビ」

 流域DMO「株式会社源」や情報発信メディア「こ、こすげぇー」、仮想村民票「こすげ村人ポイントカード」などは、村との関係を深化させるためのOS(Operation System)の役割を担うものだが、そのOSの上で動くアプリのようなコンテンツ(商品、サービス、イベント等)もつくっていった。

 なかでも、小菅村の新たな特産品としてヒット作となったのが、「道の駅こすげ」で限定販売している「山女魚のアンチョビ」である。

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山女魚のアンチョビ(画像:小菅村のお店公式サイトより)

 道の駅のイタリアンレストランはテレビ番組で取り上げられたことが追い風になり、順調な滑り出しを見せていたものの、それ以外にも「小菅村の顔」になるような目玉商品を開発していかないと、目的地型の道の駅であり続けられない。「小菅村にわざわざ来る理由」をつくり続けていかなくてはならないと考えていた。

 レストランはともかく、物産エリアは内装こそ一新したが、商品の品揃えは「物産館」の時代とあまり代わり映えせず、夏場には新鮮な「源流野菜」を求める客で賑わっていたが、冬場は種類が少なく、売上も伸び悩んでいた。

 通年販売できる小菅村ならではの加工食品を目玉にできないだろうか。そこで着目したのが、渓流魚の山女魚である。小菅村は、山女魚の人工孵化、養殖の民間事業化に日本で初めて成功した村であり、最盛期には8軒、当時でも3軒の養魚場が、多摩川の清流を引き込んで山女魚、イワナ、ニジマス、甲斐サーモン(大型ニジマス)などの川魚を養殖していた。しかも、川魚は冬でも元気に育つので、通年、安定して出荷できる体制が整っていたのだ。

 プロジェクトリーダーとして開発の中心となったのは、さとゆめで大学4年生の時にアルバイトをしてくれていた菊池紅輔君だった。彼は社会人になるにあたって、地域の現場を経験したいということで、地域おこし協力隊として小菅村に住み込んで、道の駅の開業を現場で支えてくれていた。

 そんな彼がフードコーディネーターやデザイナーなどに声をかけて試行錯誤を繰り返した結果、誕生したのが日本初の「山女魚のアンチョビ」である。

 寒暖差の激しい小菅村の清流で養殖された身の引き締まった山女魚の身と内臓を塩漬けにして、1ヶ月ほど常温で発酵・熟成後、3枚におろし、オリーブ油と菜種油に漬けることで、一般的なイワシのアンチョビより口当たりが軽く、苦みやえぐみのない爽やかな商品となった。

 今では、「山女魚のアンチョビピッツァ」はレストランの看板メニューに、袋詰めした「山女魚のアンチョビ」は物産館の看板商品になっていて、道の駅がテレビや新聞等のメディアで取り上げられるたびに必ず紹介され、全国から取り寄せの問い合わせが絶えないほどの人気特産品となっている。