「客が来るわけがないだろう」「もし失敗したら、村が赤字を補填することになるんじゃないか」――地方創生の成功モデルとして全国から注目される「NIPPONIA 小菅 源流の村」も誕生までにはさまざまな壁があった。
同施設を手掛けたコンサルティング会社「さとゆめ」の代表・嶋田俊平氏はこれをどう乗り越えたのか? 新刊『700人の村がひとつのホテルに』より一部抜粋。(全4回の4回目/3回目から続く)
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ナンバー1を目指さないといけない
ホテルの開業が近づき、改修やインテリアの選定が進み、レストランのシェフも決まっていくなか、スタッフやサポートをしてくれている仲間たちにも、お客様にとっての理想の場となる「唯一無二のホテル」をつくるという意識が浸透し、絶対に成功させるという機運が盛り上がっていった。
実は、私にはこのホテルをつくるにあたって、心に決めていたことがあった。それは、何かしらの分野でナンバー1になるということだ。これまでコンサルタントをしてきたが、自治体からの公募入札のような価格勝負の案件を別にすれば、仕事を任せるにあたってクライアントは必ずそれまでの実績を求めてきた。自分の未熟さのせいで、大きな仕事を何度か逃したこともあり、その分野の第一人者と呼ばれるようにならないといい仕事は来ない、ということを痛感していた。
それだけに、どんな分野でもいいのでナンバー1を目指さないといけない、自分の売りを持たなくてはならない、という強迫観念があったのだ。
では、今回のプロジェクトはどこで勝負ができるのか。いくつかの要素に分けて考えてみることにした。
「古民家ホテル」×「分散型ホテル」×「地域運営型」×「自治体まるごと」
このなかで、「古民家ホテル」はすでに全国に数えきれないほどあり、目新しい試みではなかったし、「分散型ホテル」はNOTEが手掛けた「篠山城下町ホテル NIPPONIA」が先駆となり名を馳せていて、この時点ではとても超えることはできそうになかった。
しかし「地域運営型」「自治体まるごと」という2つの分野でなら、これまで小菅村に「伴走」してきた経験を生かして、勝負できるのではないか。
とくに、「自治体まるごと」は、まさにこのプロジェクトの基本構想時から私たちがコンセプトとして掲げてきた「村全体がひとつのホテル」に他ならない。
村に点在する空き家をホテルにするだけではなく、空き家以外の資源もホテルの機能として見立て、人口700人の村全体をホテルとして機能させるのだ。
村のあぜ道や道路を廊下に、道の駅をラウンジに、小菅の湯をスパに、村の商店をスーベニアショップに、そして、村人はコンシェルジュに、といった世界観をつくっていけば、村の魅力をホテルに取り込んで、地域を盛り上げていくことができるはずだ。
「地域運営型の古民家ホテルと言えば小菅村」と誰からも言われるように「村まるごとホテル」のブランドを確立する。そうすれば、ナンバー1の古民家ホテルと言われる日はきっとくる。開業を間近に控えて、私は自分にそう言い聞かせていた。