「今後もマグニチュード7以上の地震が数年に1度起きても不思議ではない」とする地震学者も…
「悪いことに、相馬市では震災後、原発事故やたび重なる災害もあって、人口減少や消費の低迷が続いています。そこにコロナ禍が加わって、さらに消費が落ちました。
うちもコロナ禍を切り抜けるために借金をしています。なのに、原料費はうなぎのぼりに上昇し、物価高でもっと消費が落ちると言われています。それだけではありません。政府と東電は事故を起こした原発の冷却に使った汚染水を処理して、来年には海洋放流する予定です。必ず風評被害が起きると想定されていて、かつて汚染水漏れが発覚した時のような影響があるのではないかと心配しています。
このような状態で巨額の借金が抱えられるはずがありません。事業は続けたい。でも無理をすれば、借金まみれになって、首が回らなくなってしまいます」
渡辺さんは苦しげに語る。銀行員時代には、借金に借金を重ねて雪だるまになり、破産したり、家を手放したりした人を多く見てきた。
「今後もマグニチュード7以上の地震が数年に1度起きても不思議ではない」とする地震学者もいて、「復旧工事をしても、またやられるだけ。相馬市で事業を続けられるのか」と話す事業者が少なくない。「私も含めて、皆さんすごく悩んでいます」。渡辺さんは苦悶の表情だ。
「在庫が底を突くまでには、あと1年程度です」
山形屋商店をどうするか。その結論は一定の時期までに出さなければならない。というのも、既にカウントダウンが始まっているのだ。
天然醸造味噌の発酵には夏の暑さが必要だ。しかし、製造ラインが復旧できなかった今年は、仕込めないで終わった。
「在庫が底を突くまでには、あと1年程度です。学校給食にも1年契約で提供しているのですが、今年の契約分までしかありません。遅くとも1年後までには店をどうするか、決断しなければなりません」(渡辺さん)
補助金などの内容を精査しているものの、事業廃止か休業が大きな選択肢として浮かんでいる。
「来年は創業160年の節目です。その記念すべき年に一区切りという形になるのか。160年も地域に貢献できたのだから、もう十分に役割は果たしたじゃないかと言うべきなのか」
このような名店が本当になくなってしまうのだろうか。
報じられず、関心も持たれなくなった被災地の現場には、あまりにも悲しい物語がある。
撮影=葉上太郎
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