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安倍晋三さんの国葬と戦後政治史における統一教会から考えたい「動乱期の生き方」

2022/07/25
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統一教会だけではない…洗脳組織の「安い労働力」

 問題なのは、これらの宗教団体を隠れ蓑にした洗脳組織が統一教会以外にも複数並存し、これらが信者を無償のボランティアとして一部の自民党や野党政治家の政治活動を扶助させ、また、当たり前のように担当秘書につけることで、一体化している面が拭えないことです。宗教団体を標榜する団体と政治家の間での相互依存的な持ちつ持たれつの構造は、洗脳によって破壊された信者が「安い労働力」として選挙活動を支え、また、我が国の政党政治を行うにあたっての枢要な思想性、政策方針にまで影響を与えている疑いがとても強いことが背景にあります。

©️iStock.com

 安倍政権中盤で問題となった「日本会議」も新興宗教団体を多数関係先に持ち、これらが「親学」をはじめとした適切でもなければ科学的でもない思想が「自民党的保守」の文脈であるように振る舞い、家庭政策や文教政策に影響を与えています。

「何が正しいか分からない」からこそ、安易に依存することなく

 宗教団体であれ、労働組合であれ、共産党であれ、スピリチュアルであれ、推しであれ、オンラインサロンであれ、情報が乱舞し固有の価値観や考え方が相対化されてしまう現代社会において、短いフレーズで言い切ってくれる分かりやすい見せ方に、依存したい個人が流れ着いてしまう現象に拍車がかかっているようにも感じます。

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「学校は通うもの」「結婚して子どもを育み家庭を築くことが幸せ」「大企業に入り安定した生活」など、当たり前のように目指していたものの価値の根底が揺らぐと、盲信し、安住できる価値観や考え方に寄り添える組織への所属が安らぎを提供する面は確かにあるのかもしれません。YouTubeを観れば陰謀論が人気を博し、テレビを付ければ曰くつきの面々がそれらしいことを喋っているのは、確かに現代社会の病理なのかもしれません。

 しかし、何が正しいか分からない、幸福を与えてくれる物事がはっきりしないからこそ、安易に依存することなく平静に孤独を愛することもまた、戦後政治史が教えてくれる「動乱期の生き方」なのではないか、と思うのですよ。これから本当に米中対立に至るのかどうかはまだよく分かりませんけれども、おそらくは、誰かが誰かに作用しようとする動きはもっともっと強くなっていくのでしょう。

 安倍晋三さんの国葬はまさに、そういう日本人の生き方について冷静に考えるきっかけをくれるのではないかと思っています。神の御許に召された安倍晋三さんの魂が限りない平穏のうちにあることを、心よりお祈り申し上げます。

安倍晋三さんの国葬と戦後政治史における統一教会から考えたい「動乱期の生き方」

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