サプライズがなくても、当たり前に首位争いできるチームになった
昔の事を思い出した。最初の頃は上手く論文が書けなかった。昭和がようやく平成になったばかりの頃、誰も研究のやり方なんか教えてくれなかったから、いつも手探りで試行錯誤してた。何をやったら成功するかわからなかったし、そもそも何が成功かすらわからなかった。でも、何度か繰り返しているうちに、何時しか皆に評価して貰える仕事ができる様になっていた。そして気がついたら、沢山本が書いていて、幾つか賞もいただいた。そして、思った。何だ、俺、いつの間にか「勝ち方」が分かってるじゃないか。きっと知らない間に、ちょっとは実力がついたんだ。あの長い長いトンネルは、いつの間にか本当に抜けたんだ。人生がBクラスの黒歴史だった時代は終わったんだ。
去年のオリックスには、突然の杉本の大覚醒があり、高卒僅か2年目の宮城の開幕からの破竹の5連勝もあった。開幕当初はエラーばかりしていた紅林が、あんなに頼りになるショートのレギュラーになるとは思っていなかったし、腰高の守備をしてエラーを繰り返し、一時は外野にコンバートされた宗がサードでゴールデン・グラブ賞を取るなんて、誰も想像しなかった。言わば、様々なサプライズが重なった結果としての、快進撃であり、優勝だった。
でも、今年は違う。杉本は随分おとなしくなったし、宮城も紅林も「事実上の2年目のジンクス」に苦しんでいる。目立った新戦力がいる訳じゃないから、このチームから今年はたぶん新人王は出ないだろう。吉田正尚の成績は安定しているけど物凄く調子がいい訳じゃないし、山本由伸があれくらいやれるのは、まあ、当たり前だ。でも、それでも気がついたら首位はもう目の前に来ている。そう、オリックスはもう一昨年までの様な弱いチームじゃない。誰かが大化けするサプライズがなくても、西武やソフトバンクと堂々と、そして何よりも当たり前に首位が争える強い強いチームになったんだ。いつものメンバーがいつものように活躍し、フロックなんて何もなくても、それなりの成績を収めれば、チームはいつの間にか上位にいる。まるで、山田や福本がいた時代の阪急ブレーブスみたいじゃないか。
だとすると、きっともう大丈夫だ。首位攻防戦で三連敗したって、心配する必要なんか何もない。きっと、また気がついたら当たり前の様に首位争いをしているに違いない。だって、昨年のパ・リーグ優勝チームなんだから、我々はチームを信じて、何より安心して、応援すればそれでいい。何それ、「いつかは強いチームのファンになりたい」っていう、1970年代に南海ホークスを応援し始めて以来の俺の夢、遂にいつのまにか叶ってるやん。
だったら焦る事なんか何もない。自分のやるべき事は、まずはしっかり休んで、体力を取り戻す事だ。そして、京セラドームに行けるようになった頃、チームはもっと上位にいるだろう。そして俺も、オリックスも勝ち続けるんだ。俺の方は年をとってだいぶくたびれて来たけど、このチームとならきっとまだ行ける。だから悪いけど、今だけはもう少しベッドで休ませてもらう事にしよう。もう少しの間、待ってろよ。
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