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ストリートビューと「廃墟の街の市民の暮らし」

小泉 旧ソ連って、どこへ行っても街が似てるんです。キエフ(キーウ)なんかは、ものすごくソ連ぽい。モスクワとかにそっくりなんです。

片渕 規格型なんですね。

小泉 そう。中心部にはスターリン好みの重厚で豪華な建物があって、郊外はフルシチョフ時代の規格型団地が並んでいて見分けがつかない。

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 ウクライナはほとんど行ったことないんですが、自分が住んでいたロシアの街そのものに見えて、生活した場所が廃墟になったような非常にリアルな感じで。トマトを買ったスーパーと同じチェーン店が125ミリ砲で吹っ飛ばされるのか! とか、私の中で戦争とのトンネルがつながった感じですよね。

片渕 今はTwitterなんかにウクライナの戦争のリアルタイムに近い映像がいっぱいあげられていて、それと同じ場所のちょっと前の姿をGoogleのストリートビューで見ることもできる。

 廃墟となる前の平和だったブチャのスーパーに買い物に行く自転車のおじさんの姿とか。『この世界の片隅に』を通して、戦争前の時代から空襲・原爆の焼け野原までの移ろいを描いてきた体験があったから、ウクライナの景色が我がことのように染みてくるんです。

2022年、激変してしまったウクライナ ©️宮嶋茂樹

 普通の生活の場がそのまま戦争で損ねられ、変形してしまうのが強く感じられて。そこに踏み込んできてしまったロシアの人たちも、大きなキズを負っているのは、双方ともなんだろうなとも思うんですよ。破壊し、略奪した側のキズっていうのも残りますからね。(後編に続く)

※本記事は、2022年5月31日に「文藝春秋digitalウェビナー」で行われた対談を一部抜粋、改稿したものです。

週刊文春エンタ+ (文春ムック)

 

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こいずみ・ゆう

 1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。東京大学先端科学技術研究センター専任講師。ロシアの軍事研究が専門。2019年、『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『ロシア点描』『プーチンの国家戦略』『軍事大国ロシア』など。

かたぶち・すなお

 アニメーション映画監督。1960年、大阪府枚方市生まれ。日本大学芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。TVシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。

 TVシリーズの『BLACK LAGOON』(06)では監督・シリーズ構成・脚本。監督作に『アリーテ姫』(01)、『マイマイ新子と千年の魔法』(09)、『この世界の片隅に』(16)、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(19)など。現在、清少納言をテーマにした新作を制作中。