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東京の海辺で目とノドをえぐられた若い女性の惨殺死体…浮上した“前科4犯の男”と“疑惑の自供”――2022年上半期BEST5

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鈴ヶ森のお春殺し#1

2022/08/20

 昨日午前11時半ごろ、警視庁の一刑事は凶行現場をさる1丁(約109メートル)余の同町2478、土工・小森惣助(37)を有力な嫌疑者(容疑者)として品川署へ引致。同時に家宅捜索を行った。同人はいまから4年前、同所に来て元赤坂芸者ののぶを女房にし、「のんき屋」という汁粉屋を開かせた。同居していたのぶの妹いしに好意を抱いたが応じないのに業を煮やし、砂風呂濱の家に入り浸った。被害者はると情を通じ、二の腕に入れ墨までさせるほどのぼせていたのをのぶが知り、いしに惣助の機嫌をとるよう言い聞かせ、いしが優しくなったことからいったんははると切れた。その前にはるに入れ揚げた金を取り戻そうとピストルを振り回して脅迫。はるは郵便貯金50円(現在の約18万円)を惣助に渡したことがあるというが、最近はまたはるのもとに通っていた。

 当時の新聞はデータに誤りが多いが、気にしなかったようだ。警察の正史である「警視庁史 大正編」に基づけば、被害者は「お春」、発見者は「小林市郎」、そして容疑者とみられた男は「小守壮輔」。この名前はだいぶ後まで「小森」「惣助」など、新聞によってバラバラ。お春が小守に払った金額も「150円(現在の約53万円)」「40円(同約14万円)」と新聞によってまちまち。

「評判の淫奔娘」と“前科4犯”の男

 それはお春個人についてもいえる。東日に加えて報知は「鈴ヶ森美人殺し」、国民は「鈴ヶ森で美人の惨殺」の見出しをとったが、各紙に載っている日本髪に和服姿の写真に時事新報は「十人並み以下のご面相」と、いまなら名誉棄損の表現。

 共通しているのは「評判の淫奔娘」(東朝)という点だったようだ。時事新報も「亂(乱)倫極まる一家」の中見出し。読売はその点を次のように書いた。

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「お春は美人というわけではないが、ちょっと渋皮の剥けたうえ生来淫奔な女で情夫4人を持っていた。4年前、海水浴場を開いた際は、品川署の松沢某と通じてついに夫婦となったが、間もなく別れた」

 一方の小守も問題の多い人物だった。東日は職業を「土工」としたが、正確ではなかったようだ。「両国・高田建築事務所番頭」とした東朝は「神奈川県戸塚の生まれで前科4犯」と書いている。

「色魔」で、言うことを聞かなければピストルで脅し…小守という男の悪名

 興味深いのは都新聞(現東京新聞)で、お春と小守の関係について本文中に「さる2月18日の本紙にもある通り……」と書いている。正確には同年2月17~18日付に「黥(いれずみ)とピストル」という、品の悪い街のゴシップ記事が2回続きで載っている。

小守壮輔のスキャンダルを取り上げた都新聞

 登場人物は実名。大森海岸の掛け茶屋にのぶといし子という美人姉妹がいる。姉は赤坂で芸者をしていたとき、建築請負業をしていた壮輔と知り合い、彼の言葉を真に受けて妻になろうとしたところ、実は壮輔には妻と子ども2人がいた。

 壮輔は「色魔」で、言うことを聞かなければピストルで脅し、相手が逃げ腰になると手切れ金を要求する。いし子にまで手を出したほか、近くの砂風呂「濱の家」のお春が金に困っているのにつけ込んで金を融通したことからお春と関係ができ、お春が別れると言うと手切れ金をせしめた。

 姉妹らは「因果か、色魔にのろわれて、みすみすその毒蛇のような手から逃れもできず、泣き明かしている」。いまなら名誉棄損間違いなしだが、それだけ地元では小守の悪名は知れ渡っていたということだろうか。

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