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続々続く兵士たちの報告。そして、家族たちの間でも…

 第七師団の兵士たちの間では「営庭の明かりの下を一木支隊の兵隊たちが列を作って通過するのを見た」「おまえも見たか、俺も見たよ」式にうわさがエスカレートした。

 同じころ、第三線兵舎の外で立哨していた一等兵が、第二線兵舎の屋根に、暗い空から人魂のような青白い色をした長さ約2メートルの棒状の火箭(かせん=火の矢)が7~8本、突き刺さるように降ったのを目撃。週番下士官室に行くと、同様に見たという報告が次々届いたという。

 さらに「二八連隊の兵舎の窓ガラスが真紅に染まり、西日が当たって、兵舎全体が血まみれのようになった」「夜になると、屋根瓦がカラカラと騒々しい音を立てて不寝番を驚かせた」といった話が乱れ飛んだ。

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 家族の間にも不思議な出来事が起きていた。戦死した一木支隊の軍医中尉について、札幌に住んでいた母は「8月21日夜、白衣姿で白い杖をついて家に帰ってきた」と語り、その1週間後には第七師団敷地内官舎の妻の夢枕に立った。同じころ、何人もの将校の妻が、血まみれの軍服姿で枕元に立つなどの夫の姿を見た。

 そろって留守部隊の幹部将校に安否を問い合わせたが、分からないままだった。兵士の家族にも同様の異変が起きた。

「さすがに全滅とはせず『大きな被害を受けた』とぼかしてありましたが、ピーンときました」

「彷徨える英霊たち」には、当日夜の当直司令だった中尉の証言が載っている。

 それによると、2人の不寝番の兵士が正体不明の兵士の群れを見た。

「誰もいないはずの空き兵舎の2階から兵隊がぞろぞろ降りてくる」

「鉄かぶとを横っちょにかぶったり、鉄砲を担いだり、手にぶら下げたり、いろんな格好で降りてくる。一目で負け戦と分かる乱れた服装、態度だったそうです。空き兵舎ですから明かりはありません。だから真っ暗なのに、階段の所だけがボーッと明るく、2人は薄気味悪くて声をかけることもできず、じいっと見ていた。兵隊たちは踊り場を次々回ると、姿が消えた。どこへ行ったか分からないということでした」

 中尉は「そんなバカなことがあるか」と言ったが、2人とも見たというので放っておけず、連隊に報告した。

「その5日後、一木支隊の戦況に関する初めての公電が師団に入りました。さすがに全滅とはせず『大きな被害を受けた』とぼかしてありましたが、ピーンときました。そこで、あの時の話はやっぱり本当だったんだ、あれはきっと一木支隊の英霊が還ってきたのだ、それで乱れた服装だったのだ、という話がいよいよ広まったのです」