「私って本当にラッキーだな」って
――これまでも、これからも、「病気ありき」の生活だと思います。そのなかで、どのようにタフさを身につけたのでしょうか?
後藤 やっぱり病気のせいでいろいろ制限があるのは嫌なことです。でも、何か嫌なことがあった時、それが「変えられること」なら変える努力をすればいいけど、「変えられないこと」なら受け入れたほうが早い。考えても仕方ないなら、そこに時間を使わない。この切り替えが精神のタフさに繋がっているのかもしれません。
それに……、病気じゃなければ、私は全然違う人生を生きていたと思うんです。
学生時代に、時間に限りがあるなんて意識しなかったら、あんなに必死になることもなかった。「やりたいことを何もしないまま人生が終わってしまう」という焦燥感が、いつも私を追い立てて突き動かしていたから、無謀な方向にも進めました。それがなければ声優を目指すこともなかったんです。
病気がなければ、きっと私は今ここにいない。そう考えると、病気自体は少しも喜ばしいものじゃないけど、この病気はマイナスよりもプラスを私に多く与えたのかもしれません。……かっこつけすぎました(笑)。
――いちばん多忙な時期に、もし戻れるとしたらどうしますか?
後藤 「あんなに大量に仕事をしていなかったら倒れることもなかったんじゃないの?」とは、よく言われるんです。
でも、もう一度あの場に戻ったとしても、私は同じことをやっちゃうだろうな、と思います。「どの作品を断ろうか?」「どのキャラを断ろうか?」と考えたときに、「どの子も無理!」「全部やりたい!」って思っちゃうんだから、ほんと仕方ないですよ、私(笑)。
あの全力の年月がなければ倒れることもなかったけど、いまの私もないと思うんです。あのころ演じたキャラクターを今でも演じる機会があったり、キャラクターを好きでいてくれた人たちが、今も私のお芝居を聞きたいと待っていてくれたりする。あの頃出会った大勢のキャラクターが、今も私を前に進めてくれているような感覚があるんです。
きっと大事なのは、自分の気持ちと体、どっちも思いやるバランスなんですよね。……どの口が言うか、って話ですけど(笑)。
いま、どこも痛くなくて、苦しくもなくて、好きなお芝居がやれてて、「私って本当にラッキーだな」って思います。
撮影=橋本篤/文藝春秋
私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。
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