日髙 実は受けさせていただいていたんですけど、どの作品かまでは覚えていないんです。たぶん、レギュラーではなくて単発の作品だったのかもしれません。あと、発表前ですからタイトルなどを知らずにオーディションを受けている可能性も高いでしょうね。『となりのトトロ』もそうだとは知らずに受けているので。
私は声優になってから、3つの目標を心に決めていたんですよ。子供の頃から大好きだった「世界名作劇場」(フジテレビ、1975~2009年)に出ること、出演するアニメの主題歌を歌うこと、そして宮崎駿監督の作品に出ること。そんなわけで『トトロ』のオーディションにはびっくりしたし、嬉しかったですね。
『トトロ』と『タッチ』は異例のオーディションだった
――事務所側も色めき立ったのでは。
日髙 あんまり覚えてないけど、そうだったかも(笑)。『タッチ』(フジテレビ、1985~1987年)のオーディションも似たような感じでした。別の作品のアフレコをしていたら『タッチ』の音響監督の藤山房延さんがいらして、帰り際に声をかけられたんですよ。「今度『タッチ』という作品のオーディションを受けてもらうから、よろしくね」って。
それも私が事務所に電話をして「今、こういうふうに言われたんだけど、『タッチ』はすごく好きな作品で絶対にオーディションは受けたいので、連絡が来たらすぐ教えてください」なんてことを話したと思います。でもこれほど急なオーディションは、覚えている限り『トトロ』と『タッチ』のふたつですね。両方とも異例だったのかもしれない。
――絵コンテを読むオーディションというのは、具体的にどう進んでいくのでしょう。
日髙 通常のオーディションでは、キャラクター表というキャラクターだけが描かれた紙と、セリフが抜き書きされた原稿が用意されています。キャラクター表には怒った顔、笑った顔、泣いた顔……そのキャラクターの表情が描かれていて、それを見ながら、「原稿に書いてあるセリフはこの表情で言っているのかな」と想像しながら演じてみる。それをミキサーさんが、本番の時と同じようにテープを回して録音して、テープを聞きながら役に合っているかどうかを判断する。これが、よくあるパターンなんです。
でも、『トトロ』は絵コンテでした。アニメーションの絵コンテは縦長で、左側の「画面」という枠にはカット(絵)が描かれていて、右側の「内容」という枠にはそのカットに入るセリフなどが書かれているんですね。たとえば〈サツキ「お父さん、キャラメル」〉といった風に。なので、絵の動きとセリフを見て「今はこういう状態なんだな」と自分で理解して読んでいきます。
絵コンテに書かれたセリフが丸で囲まれていて、それを読むというスタイルは『トトロ』が私にとって初めて。最初で最後だったような気がします。