「でも、宮崎さんがあれが良いっていうんだよね」
――サツキ役のオーディションに受かった後、斯波さんに「落ちると思っていた」と打ち明けたそうですが。
日髙 そうです。後日、「私、だめだと思ってました。できなかったから」と話しました。1回目のオーディションの後も斯波さんには会っていましたけど、やっぱり怖くて聞けなかったですよね。ノミの心臓なので、結果が出る前に確かめる勇気はなかった。
「女の子で元気に演じられなかったので、絶対にだめだと思ってました」と話したら、斯波さんは「ねえ」って(笑)。含みのある感じで、僕もそう思っていたという風におっしゃって。続けて「でも、宮崎さんがあれが良いっていうんだよね」と教えてくれました。
――ご自身では、サツキ役を射止めた理由についてどう考えていますか?
日髙 私には弟がふたりいて、おままごともしていましたけど、どちらかというと弟たちと男の子のように遊ぶことが多かった少女時代だったんです。だから、「○○だよ」とか「○○しときな」みたいな話し方だったんですよ。「メイはここで待ってな」とか、サツキちゃんのセリフもそういう感じですよね。「待っててね」じゃなくて、「待ってな」っていう。もしかしたら、サツキはちょっと少年のような少女、みたいなイメージが宮崎監督に元々あって、そういう風にセリフを書かれていたところに私がハマったというか……。私としては、それしか考えられないです。
「私の声が入ることで足を引っ張ったらどうしよう」
――その点に関して、宮崎監督に直接確かめる機会は。
日髙 監督と直接お話しする場面は、当時はそうそうなかったんですね。音響監督さんが監督さんの希望を聞き、音響監督さんがまとめて演出の指示を声優に出すという流れがしっかりとあって。だから本番中に、宮崎監督と言葉を直接交わすことはまったくなかったです。まともにお話ししたのは公開時の舞台挨拶で、少しだけ。当たり前ですけれど、監督はアフレコにベタでいらっしゃいましたから、「おはようございます」「お疲れさまでした」という挨拶はしていましたけどね。
――そうでしたか。見事サツキ役に決まってから、『トトロ』の台本とリハーサル用のビデオを渡された時、日髙さんはそのビデオを観て絵に圧倒されたそうですね。
日髙 完全版ではなかったんですけどね。色が付いていない部分もあって、線画といわれる輪郭を描いた絵だったんですけれど、それでも木は風に揺れている。ただ色が付いていないだけで、動きは完璧なものだったんです。その絵に圧倒されてしまって、「私の声が入ることで足を引っ張ったらどうしよう」と思いました。