電話でDさんが語ったことは…
プルルルルル……。
「なに……」
「もしもし? D?」
「なによ、夜中なんだけど……どうしたの?」
不機嫌そうなDさんの寝起きの声が森に響き渡る。
「今、家?」
「当たり前じゃん」
スマホからDさんがごそごそと体を動かす音が響く。
「うわ、2時じゃん。明日仕事なんだけど……何?」
「あのさあ、俺、今AとBと、あの、前にお前が言ってた山の心霊スポット? みたいな場所に来たんだけど」
「はあ?」
Dさんの声が怒気を帯びる。
「いや、話蒸し返そうってわけじゃなくて――」
「何考えてんの? マジで。終わったじゃん、あの話さあ」
「いや、そうじゃなくて心配で電話しただけでさ――」
「マジであり得ないんだけど」
ドンッ!!
ガシャン!!
スマホ越しにDさんが机らしきものを叩いた音がした。
それと同時に、プレハブ小屋のロッカーが叩かれる音がした。
恐る恐る再び近寄って明かりを向けると、2つあったロッカーの扉が開いていた。
中には誰もいなかった。
「チッ……こいつもかよ……」
ブツッ。
Dさんのその言葉を最後に電話が切れた。
一同は大慌てで斜面を駆け下り、車で山を後にした。
「でもね、ないんですよ、そんな小屋一軒も」
「ね、意味わかんないでしょ……?」
そう語るSさんに、かぁなっき氏は質問したという。
「その後、CさんとDさんのカップルってどうなったんですか?」
「しばらくして別れたらしいですよ。喧嘩が多くなって、Dさんがずっとあの夜のことを忘れてくれないみたいで、すごく根に持っていたというか」
「でも、夜中に電話しただけでそんなにずっと怒るって相当頭にきたんでしょうね」
「いや、電話というか、『人の生活に土足で入ってこようとしてさぁ……』とか、『勝手にこっちに入って、上がりこんできてんじゃねぇよ』とか言うんですって。なんかヤバくないですか? 『せっかく思い出の場所だったのに』って言うんですって」
「なんですかそれ……」
「プレハブで起きたこととDさんとの電話のリンクが、なんか怖いんですよね。あ、そうだ。僕行ったんですよ、この話聞いてからその山に!」
「行ったんですか?」
「プレハブ小屋あるかなあって。でもね、ないんですよ、そんな小屋一軒も。昔そういうプレハブが建っていたような跡は見つかったんですけどね」
「……いやぁ」
「プレハブや置き手紙のことと関係あるんですかね。なんか気になっちゃって。でも、こういうのこそ“土足で上がる”って言われるのかな。ちょっと考えすぎですかね、ははは……」
Sさんは、独り言のようにそう呟いたそうだ。
(文=TND幽介〈A4studio〉)