1ページ目から読む
2/4ページ目

グレーのカーペットが敷き詰められた小さな空間

 カチャ……。

「鍵かかってないんだけど」

 言い出しっぺだからと一人潜入係に任命されたAさんは、後方に待機するBさんとCさんの明かりに照らされながら、ゆっくりとドアノブを回していく。

ADVERTISEMENT

 ギギギィ……。

 夏の湿気で少し軋んではいたが、普通に開閉でき、扉を開ける。

「お邪魔しまーす……」

 恐る恐る首を突っ込んで中を見るAさん。

 その後ろ姿を照らしていたBさんとCさんは、なかなかリアクションしないAさんに声をかけた。

「おい、中どうなってたー?」

「なんかあったー?」

 Aさんは黙ったままゆっくりと首を戻し、2人を振り返る。

「なんもねえ」

 おちゃらけた表情でAさんは呟いた。

「ねえのかよ!」

「普通の小屋よ。こっちきて見てみ」

 確かにびっくりするくらい中には何もなかった。化学繊維のグレーのカーペットが敷き詰められた小さな空間があるのみだった。

 不気味な落書きのひとつやふたつ、見つかるかもと内心期待をしていたが、正直ここまで苦労して歩いたことを考えると、この空振りには腹が立ってくる気さえした。

「……じゃあ帰ってどっかファミレスで飯食うか。暑いし」

 ガチャ。

 後ろから音がした。

 一行はバッとスマホの明かりを後方に向ける。

 照らされるプレハブ小屋たちと木々。

 しばらく音の原因をジッと探ったが、明かりが弱くわからなかった。

「何、今の……?」

「ドアノブ?」

「誰かいるんすかー!?」

 Bさんが叫ぶも反応はない。

「こえーなになに……」

 ――こっち、こっち――

 突然、女の声がした。

©iStock.com

手招きする女

 声の方向……2、3軒先のプレハブ小屋に一斉に明かりを向ける。

 女がドアから半身を出して、手招きしていた。

 ――こっち、こっち――

 声もなく立ち尽くす一同。

 ――こっちだってぇー……――

 女は手招きしながら、ニューッと半身を小屋の中に戻して消えてしまった。

 固まりながら、Bさんが明かりを2人に向ける。

 手が震えているようだ。

「仕込み? なあ?」

「違う違う、そんなわけねえだろ……誰だよあいつ」

 そんななかCさんがつぶやく。

「Dだ……」

「は?」

「今の、俺の彼女だ」