グレーのカーペットが敷き詰められた小さな空間
カチャ……。
「鍵かかってないんだけど」
言い出しっぺだからと一人潜入係に任命されたAさんは、後方に待機するBさんとCさんの明かりに照らされながら、ゆっくりとドアノブを回していく。
ギギギィ……。
夏の湿気で少し軋んではいたが、普通に開閉でき、扉を開ける。
「お邪魔しまーす……」
恐る恐る首を突っ込んで中を見るAさん。
その後ろ姿を照らしていたBさんとCさんは、なかなかリアクションしないAさんに声をかけた。
「おい、中どうなってたー?」
「なんかあったー?」
Aさんは黙ったままゆっくりと首を戻し、2人を振り返る。
「なんもねえ」
おちゃらけた表情でAさんは呟いた。
「ねえのかよ!」
「普通の小屋よ。こっちきて見てみ」
確かにびっくりするくらい中には何もなかった。化学繊維のグレーのカーペットが敷き詰められた小さな空間があるのみだった。
不気味な落書きのひとつやふたつ、見つかるかもと内心期待をしていたが、正直ここまで苦労して歩いたことを考えると、この空振りには腹が立ってくる気さえした。
「……じゃあ帰ってどっかファミレスで飯食うか。暑いし」
ガチャ。
後ろから音がした。
一行はバッとスマホの明かりを後方に向ける。
照らされるプレハブ小屋たちと木々。
しばらく音の原因をジッと探ったが、明かりが弱くわからなかった。
「何、今の……?」
「ドアノブ?」
「誰かいるんすかー!?」
Bさんが叫ぶも反応はない。
「こえーなになに……」
――こっち、こっち――
突然、女の声がした。
手招きする女
声の方向……2、3軒先のプレハブ小屋に一斉に明かりを向ける。
女がドアから半身を出して、手招きしていた。
――こっち、こっち――
声もなく立ち尽くす一同。
――こっちだってぇー……――
女は手招きしながら、ニューッと半身を小屋の中に戻して消えてしまった。
固まりながら、Bさんが明かりを2人に向ける。
手が震えているようだ。
「仕込み? なあ?」
「違う違う、そんなわけねえだろ……誰だよあいつ」
そんななかCさんがつぶやく。
「Dだ……」
「は?」
「今の、俺の彼女だ」