8月に起きた約200件の豪雨災害
豪雨に次ぐ豪雨が、全国各地で災害を引き起した2022年の8月。
国交省のまとめでは、北海道から福岡県までの135河川以上で氾濫が発生し、土砂災害は北海道から佐賀県にかけての範囲で200件も起きた。
鉄道の被災も相次いだ。8月末時点で7路線の被害調査や復旧工事が行われているが、特にダメージが大きかったのはJR米坂線(米沢-坂町)だろう。山形県米沢市と新潟県村上市を結ぶ90.7kmのローカル線である。鉄橋が崩落したほか、多くの箇所で土砂が崩れ、路盤が流出した。
だが、復旧に向けた動きは一向に伝わってこない。逆に地元から漏れ聞こえてくるのは、「これを機に廃線にされてしまうのではないか」という不安の声だ。なぜ、そうなってしまったのか--。
「まさか崩落してしまうなんて……」
川の中ほどに、緑の鉄橋が落ちていた。からみついた流木や枝。水流は減っているものの、まだ茶色く濁っている。
山形県飯豊(いいで)町。米坂線の「小白川橋梁」である。
山形の河川と言えば、県央を貫いて日本海に注ぐ「最上(もがみ)川」が有名だ。日本3大急流の一つとされており、江戸時代の俳人・松尾芭蕉は『おくの細道』で「五月雨を集めて早し最上川」と詠んだ。
その支流の「置賜(おきたま)白川」。そのまた支流の「小白川」。ここを米坂線が渡っていたのが小白川橋梁だった。
「普段はそれほどの流れではありません。ところがあの日、近くを通った時には、橋のすぐ下まで水が迫っていました。ただ、崩落してしまうなんて……」。60代の男性は今も信じられないという表情で言葉を呑む。
小白川では同橋梁の200mほど上流でも、県道が通過する橋が崩落し、いかに流れが激しかったかがよく分かる。県道橋の崩落現場では、車が流されて1人が行方不明になった。その時のあふれんばかりの水流は、道路をえぐり、電柱も大きく傾かせて、生々しい傷跡を現場に残している。
これら二つの橋梁崩落は全国ニュースになったので、記憶に残っている人も多いはずだ。
米坂線の被害はこれだけでは済まなかった。
「田んぼも道路も海のようになっていて、腰の高さまで浸水していました」
そこから2kmほど離れた飯豊町の中心部には、羽前椿(うぜんつばき)駅がある。同駅から隣の萩生(はぎゅう)駅までの2.8km区間は、被災していない箇所を見つけるのが難しいほどだ。
路盤の砕石が流出して田んぼを埋め、宙づりになった線路が続く。
いったい、何が起きたのか。近くに住む人の証言からたどってみよう。
「あの日、滝のような雨になったのは昼ごろからでした。屋根に打ちつける音がバリバリと響き、一人で家にいるのが怖いぐらいでした。雨脚は一向に弱まりませんでした」と、78歳の女性が振り返る。8月3日のことである。