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井上 命の重さを上回るほど下半身にコンプレックスを抱えた患者さんと出会ったことが大きいです。

 その方は直腸がんの患者さんでしたが、手術すれば命が助かる状況でした。しかし彼女は頑なにそれを拒んだ。理由をずっと教えてくれなかったのですが、やっと打ち明けてくれたときに彼女が口にしたのは、「手術のときに自分の性器を見られたくない」でした。

――患者さんの正直な気持ちを聞いてどう思われましたか。

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井上 それまでも、コンプレックスがあって性器を見られたくない方はいたと思うんです。でも、皆さん「命のほうが大事だから」と飲み込んできたのではないかとそのとき気付かされました。

 その方には性器整形を紹介し、「がんも、長年の悩みも両方治して元気になりましょう」とお話しし、治療を進めることができました。今でもその方は元気に過ごしてらっしゃいます。

©文藝春秋

「僕は性器専門の職人です」

――これまでの価値観を揺さぶるような出会いですね。

井上 美的な悩みが命を超えてくることがある。それを知ったことで、考え方はガラリと変わりましたね。そもそも美容医療だって、VIO脱毛がこんなにメジャーになるなんて5年前ですら誰も予想がつかなかった。

 なので、下半身美容も性別関係なく、今後さらにメジャーなものになっていくような気がしています。顔にヒアルロン酸を入れたことをインスタで上げるように、下半身の悩みをもっとオープンに話せる社会になるのではないでしょうか。

――そういえばクリニック名の「ヴェアリー」ってどういう意味なんですか。

井上 「とても」という意味の「VERY」と、「変化する」という意味の「VARY」をかけ合わせた造語です。うちに来てくれた人の気持ちが明るく変わったらいいな、ということで決めました。

――すてきですね。先生が名付けたんですか?

井上 いえ、ライターに頼みました。僕は性器専門の職人です。餅は餅屋ということで。