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「ポル・ポト兵が村人の腹を割くのを見た」神奈川の“ラブホ居抜き”カンボジア寺の憂鬱な午後

2022/09/08

genre : ライフ, 国際

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ラブホ街にはためくカンボジア国旗・仏教旗・日本国旗

 神奈川県の中心部、伊勢原市の善波峠を通る善波隧道(旧善波トンネル)付近は、ちょっとした怪奇スポットとして知られている。1965年に少年がバイク事故を起こして亡くなり、その後に遺族が「もう死なないで準一」と、かなり個性的な表現の立て看板を設置した。看板自体は1989年に撤去されたが、山奥のトンネルのたたずまいから、不気味な雰囲気を感じる人はなお多い。

 いっぽう、トンネル付近の山肌には、別な意味で独特の雰囲気を放つエリアが存在する。それはラブホテル街だ。地方特有の広大な敷地に、かなり年季が入っていそうなラブホテルが集中しているのである。そしてこのエリアの坂を登っていくと──。いきなりカンボジア国旗・仏教旗・日本国旗が仲良くはためいていた。

旗の根本の掲示板上のボードをよく見ると「空室」「満室」などとうっすら読める。撮影:Soichiro Koriyama

 旗の前の丁字路を左に曲がり、さらに坂道を登ると、今度はクメール文字と英語で記された寺院名らしき看板と、五色(ごしき)のカラーの大量の小旗。さらにクメール仏教式の金色の灯籠が建っていた。どう見ても、カンボジアの郊外地帯の仏教寺院としか思えない。

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ところが敷地内には「休憩/宿泊」などの看板が残っており…

 ところが、いっぽうで敷地内には戸建1部屋の隣に駐車場が備え付けられたコテージ型のルームがあり、敷地には「休憩/宿泊」などと書かれた看板が残っていた。かつての施設名は「Hotel MOMI」。ネットで調べると、一部のラブホ案内サイトに往年のデータが残っており、平日日中のサービスタイムは最大8時間ご利用で3800~5600円。自動精算機なし、カード利用も不可となっている。昭和の香りが濃厚すぎるほど漂う、田舎の古きラブホだ。

カンボジアすぎるほどカンボジアっぽい光景だが、神奈川県伊勢原市である。撮影:Soichiro Koriyama

 ここの地図上の名称は「カンボジア憩いの館」だが、実質的にはクメール仏教の寺院である。以前、在日外国人のイスラム教徒による元パチンコ屋のモスク民家を居抜きで改造したモスクを紹介したが、今回の伊勢原市のカンボジア寺はラブホテルの建物がそのままお寺になっているという、パチンコ屋モスク以上の仰天居抜き物件なのであった。

物件購入の際に「不動産屋に”騙された”」

「ここができたのは5年くらい前です。日本に旅行するのが好きなカンボジアの大富豪が、お寺を作りたいと思ったんです。当時、ホテルはまだ営業中でしたが、『売ってほしい』と持ちかけたら『いいよ』と言われたので買いました」