がん患者なら、だれもが最良の手術を受けたいと願うもの。しかし「切るか切らないか」など悩みは尽きません。そこで名医と称される専門医たちに尋ねてみました。
「自分が患者だとしたら、どんな治療を受けたいですか?」
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日本人のがんで、もっとも死亡者数の多いのが肺がんだ。胃がんになる人のほうが多いのだが、亡くなる人は肺がんが多い。それだけ、治すのが難しいがんであることを意味している。
一方で、CT(コンピューター断層撮影)検診が普及して、ごく早期の小さながんの発見が増えた。なかでも扱い方が問題になっているのが「すりガラス状結節」だ。胸部X線撮影では見つからなかった数ミリ〜2センチ程度の淡い影が見つかるようになったのだ。
肺がんの診断に詳しい、国立がん研究センター東病院放射線診断科長の楠本昌彦医師が解説する。
「すりガラス状結節は、CTの性能が向上した90年代半ばから見つかり始めました。当初は手術で切除したのですが、調べるとがんの一歩手前の病変である場合があり、一部の患者さんでは『手術をやり過ぎているのでは』と議論になりました。そこで当時私が勤務していた国立がん研究センター中央病院では、2000年頃からこのような人は、しばらく様子を見ることになりました」
CT検診で肺に淡い影が見つかり、不安を抱えている人が今もいるはずだ。だが、外来で経過観察中の患者をたくさん診ている楠本医師は、「すりガラス状結節の多くは、すぐには大きくならないので、あわてないで」と助言する。
「ゆっくりと大きくなる人もいれば、もう10年以上大きさが変わらない人もいます。当院では、1.5センチ以下のものは定期的に様子を見て、大きくなるようであれば手術を考慮します。ただし、影の中心に濃い部分があるものは、がんの可能性が高いので、手術をおすすめします」
それでも、高齢の人や、心臓、肺などに持病がある人には、手術をすすめない場合もあるそうだ。肺に影があるからといって、安易に手術をしてしまうのではなく、見きわめが大切だと楠本医師は強調する。
「肺がん診療の経験が豊富な施設ほど、手術の要否の判断を慎重にしているはずです。すりガラス状結節が見つかった場合には、そのような施設の専門医に相談してください」
ただ、すりガラス状結節は、40歳代、50歳代の若い人にも見つかることがある。その場合、長年月にわたり定期的にCTを受ければ、累積の被曝線量が多くなる問題点がある。
「若い人は、どう扱うべきか悩みます。経過観察中に急激に大きくなって進行する可能性がないとも言い切れません。私は47歳(取材当時)ですが、自分に見つかったら取ってしまうでしょう。でも患者さんとはよく相談して、経過を追っている人もたくさんいます」
そう話すのは、順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器外科教授の鈴木健司医師だ。肺にすりガラス状結節が見つかったとしても、ほとんどの人に自覚症状はない。すぐに命を脅かす可能性も低いだけに、できれば体に負担なく切ってほしいだろう。