手術できれば、根治の可能性も出てくる。だが、肺がんで手術できる患者は4割ほどだ。手術できない場合や再発・進行した場合は、薬物治療と放射線治療に託すことになる。肺がんの薬物治療は、がん細胞の特定のたんぱく質を狙い撃ちするようつくった「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害剤」が次々に開発されている。和歌山県立医科大学附属病院呼吸器内科・腫瘍内科の山本信之教授が解説する。
「EGFR遺伝子に変異のある患者さんに有効な分子標的薬としてゲフィチニブやエルロチニブが使えますが、2012年にはALK遺伝子の変異をターゲットにしたクリゾチニブが、14年にはアレクチニブが加わりました。これ以外にも新しい遺伝子変異が見つかり、それらに対応する薬の開発が急ピッチで進んでいます。延命効果だけでなく、腫瘍が小さくなって呼吸が楽になるなど、生活の質の改善にも役立っています」
ただし、どの患者にも使えるわけではなく、それぞれの遺伝子変異がある場合にしか有効ではない。また、間質性肺炎などの副作用にも注意が必要だ。
「分子標的薬を適切に使うには、遺伝子変異の検査が正確にでき、かつ副作用にも対応できなくてはいけません。私が受けるとしたら、これらの薬の十分な使用経験を有する施設を選ぶでしょう」(山本教授)
最後にタバコの害にも触れておきたい。喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者の3倍以上だ。喫煙者は、CT検診を受けたほうがいいかもしれない。ただし、
「CT検診を受ければ肺がんの死亡率は下がりますが、かならず早期発見できるわけではありません。特にタバコを吸う人の場合は、去年影がなかったのに、今年検査をしたら、病気が随分進んでいた、ということもめずらしくないのです」(楠本医師)
それだけではない。
「タバコを吸う人の肺はボロボロのことが多く、術後の合併症率が高くなるなど、治療がとても困難です。喫煙者は全体的に減っているのですが、女性の喫煙率は減っておらず、『やせるから』といった理由で吸う若い女性が多いので心配です」(鈴木医師)
肺がん死を遠ざけるためには、第一にタバコを吸わないこと。これを肝に銘じるべきだろう。
■理想の治療のための5つのポイント
(1)タバコはやめること。肺がんリスクが上がるだけでなく、治療も困難な場合が多い
(2)CT検診で見つかる「すりガラス状結節」はあわてず、経過観察するか手術をするか専門医と相談を
(3)手術はキズの大きさにこだわるよりも、安全にしっかり取り切ることを第一に
(4)小さいうちに見つけることができた場合は、肺機能を残せる縮小手術(区域切除など)を検討する
(5)手術できない場合や進行・再発がんは、遺伝子変異の検査ができる病院で分子標的薬を検討する