小林 アメリカ・欧州・日本では、インフレの条件や状況がそれぞれ異なりますよね。
河野 アメリカの場合は「ディマンドプル型」のインフレ。新型コロナの終焉で、経済活動が本格的に再開されたことで、それまで抑え込まれていた物・サービスの消費が拡大。需要が供給を上回ることとなり、物価が上昇しています。一方、日本は「コストプッシュ型」のインフレです。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によって資源・食料価格が高騰し、物価上昇の要因となっている。欧州はアメリカと日本の中間です。
ロンドンの地下鉄は初乗り1000円ほどに
尾河 欧州のインフレはすごいことになっていますよ。私は1990年代後半にイギリスのロンドンに住んでいたことがあるのですが、当時の地下鉄の初乗り運賃は、中心部のゾーン1で2.6ポンドほどでした。今はどうなっているのか調べてみたら、5.9ポンド。安い日本円に換算すると1000円ほど。とんでもない金額です。
ただ、欧米の場合は、物価上昇にきちんと賃金上昇が追いついてきている。アメリカは労働市場の流動性が高いため、労働需要から賃金がどんどん上がっています。また欧州は他国と比べて労働組合の発言権が強いため、賃上げの要求が反映されやすい。日本は特殊な国で、2%程度のインフレでも実質賃金は下がるため、体感インフレが消費者マインドを冷ましてしまう。これは「日本特有の問題」です。
小林 日本でも賃上げが追い付けば、今くらいのインフレはそれほど問題にはならないはずですね。日本企業が賃金を上げられるかどうかという課題が浮上してきています。
尾河 金利の引き上げのほうも日本だけが特殊。景気の過熱を防ぐため、各国はいっせいに金融引き締め(金利の引き上げ)に走っています。アメリカのFRBは今年3月にゼロ金利政策を解除し、その後も利上げ幅を引き上げ、7月には早くも2%台に乗せた。ECB(欧州中央銀行)も、今年7月に利上げを決定し、2014年から導入していたマイナス金利政策を解除しました。
小林 ところが日銀の黒田総裁は7月の金融政策決定会合で、利上げについては「全くない」と言い切りました。金融緩和をこのまま継続することで、賃金と物価を緩やかに上げていくと説明しています。ほぼ10年前から同じことを言い続けていますが、物価は外部要因で上がったものの、賃金はなかなか上がらない。
尾河 なんとか2%インフレの目標をクリアしようと、日銀だけがゼロ金利を頑なに維持している。利上げを進める各国との金利差が、円安を押し進める要因となっています。