なぜ日本経済だけが、ここまで弱ってしまったのか。安宅和人、河野龍太郎、尾河眞樹、小林慶一郎の4氏が日本経済の現状を徹底討論した座談会「『日本ひとり負け』戦犯は誰だ?」(「文藝春秋」2022年10月号)を一部転載します。

左から、安宅和人氏、河野龍太郎氏、尾河眞樹氏、小林慶一郎氏

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ロシア経済も疲弊していないのに…

小林 世界各国でインフレが加速しています。アメリカでは今年6月の消費者物価指数が前年と比べて9.1%も上昇、40年ぶりの高水準となりました。欧州の消費者物価指数も8.6%上昇しています。

河野 80年代終わりに日本が先進諸国で先駆けて低成長時代に入って以来、これだけ世界的な規模でインフレが起こるのは前例がありません。

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小林 長らくデフレが続いた日本でも、景気がよくなったからというわけでもなさそうですが、円安や資源高を背景として、食料品や日用品、ガス料金や電気料金などが続々と値上がりしています。上昇の幅は欧米ほどではありませんが、今年6月の消費者物価指数は、昨年同月を2.2%上回りましたね。

河野 2%とよく言われますが、消費者のインフレの体感はもっと高いはずです。私たちは消費者物価指数によって物価の上昇を判断していますが、指数品目のうち購入頻度が高い食料品や電気料金だけを抽出すれば、6月の物価上昇率は4.9%ほどになります。モノだけを取り出しても5%台。物価上昇の体感はすでに5%でしょう。

食料品の値上げも続く

尾河 インフレも悪いことばかりではない。2%程度の緩やかなものであれば、消費・投資マインドが刺激されて景気も上向きになるというメリットがある。ただ、このところのインフレは要注意かもしれません。

河野 1987年から2006年までFRB(米連邦準備制度理事会)の議長を務めたアラン・グリーンスパン氏は、物価の安定を「我々が物価にわずらわされることなく、消費など日々の生活や経済活動をおこなえる状況」と定義しています。この文脈で考えれば、もはや物価が安定しているとは言い難い。スーパーで商品を選ぶ際に、しばらく悩む消費者も増えてきた。6月に日銀の黒田東彦総裁が「家計は値上げを受け入れている」と発言して大きな批判を浴びたのは、この消費者心理の変化を見過ごしていたからです。

黒田東彦日銀総裁

小林 私は個人的に、インフレよりも円安の問題が印象深いです。先日、アメリカから知人の経済学者が来日したので、一緒にランチに出掛けたんです。1300円くらいの中華を食べたのですが、相手は「このクオリティなら、アメリカでは5000円はするよ」と喜んでいました。日本は“安い国”になったんだなあ、と改めて実感しました。