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「やったー、これが売れたってことか」

上沼 駆け出しの頃の思い出って、何ですか。私は九州で南沙織さんの前座で漫才したことが忘れられない。まず大阪から夜行列車。何時間も揺られて到着したときには顔は真っ黒になって。蒸気機関車に乗ったわけやないのになんでやろ(笑)。

天童 私も地方営業がつらかった。青森に行ったとき、大先輩の歌手はベンツ、私は宣伝カーの軽トラック。ドアを開けたら拡声器がドカッと陣取っていて、荷台に自分で片づけないと座れませんでしたよ。

上沼 芸人って今でこそスター扱いですが、当時は「笑いもの」。南沙織さんのコンサート会場では、「お前らに控室はない」とトイレで着替えさせられ、漫才してもお客さんから「もうええから早く南沙織を出せ」って野次が。売れっ子アイドルの南さんは飛行機でピューッと来て、ヒット曲を歌えば歓声が「キャー」、歌い終えたらまた飛行機でパーッと帰っていった。

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天童 スターは早く東京に帰らなあかんから。

 

上沼 一瞬で居なくなりますよね、スターって。あと芸能人が気にするのは新幹線のグリーン車。新大阪駅のホームで、共演したばかりの新人の歌手に「いい曲やから絶対ヒットするわよ。頑張りや」と声をかけていたら、その子は「ありがとうございます」って言いながらグリーン車へ。私はまだ指定席の扱いで、惨めでした。

天童 携帯電話がないころは新幹線で連絡とるのも大変でした。母と指定席に乗っていたら「16号車にご乗車のテイチクレコード天童よしみちゃん」ってアナウンスが流れてきて。レコード会社の人がグリーン車まで呼びやがるんです。母とむっとしながら行ったら「乗っているかどうかの確認でした」。特に用事はなかった。

上沼 いちいち呼びつけるなよって話ですね。初めてグリーン車に乗れた時、「やったー、これが売れたってことか」と思いました。

天童 ほんま、そうですね。私は売れなかった時代のほうが長くて、そこで「負けたらあかん」と、へこたれなかったから、今も歌えているんだなと思いますね。

上沼恵美子さんと天童よしみさんによる「幼なじみ爆笑対談『家に滝があるんですって?』」全文は、「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。

文藝春秋

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幼なじみ爆笑対談「家に滝があるんですって?」